【58】黒幕は<1>
転移魔法によって視界が一瞬だけ真っ暗になった後、次に目を開けるとそこは――先ほどまでの地下牢から一転して、拓けた星空の下だった。
周囲を見回すと、そこは見晴らしのいい草原。少し遠くにあの頑強そうな城壁が見えて、どうやらここがあの街の外らしいということが見てとれた。
「うぅ……きもちわる……」
そう声が聞こえて振り返ると、草むらの上で顔を青くしてしゃがみこんでいるソラスの姿がある。ルインもラーイールも……そして気を失ったままのアリアライトも、そこにいた。
「無事か?」
「だい、じょうぶです……」
「大勢の転送だったから、だいぶ魔素酔いした……」
口々に返すラーイールとルイン。少なくとも、体は無事そうだ。
そして、残るアリアライトはというと……
「……ぅぅ。ここ、どこ……?」
ぼんやりとした目をこすって起きると、周囲を見回して首を傾げている。そんな彼女に近寄ってよいものかどうか、俺が一瞬悩んでいると――
「もう、襲ってこねえよ。そいつは操られてただけだからな」
そんな声に振り向くと、少し離れた木陰にあの黒装束の男が立っていた。
今はフードも、顔を覆う仮面もなく。顕になっていたその素顔に、俺たちは皆目をみはる。
「……キース?」
「様をつけろよ、平民ども」
不機嫌そうに舌打ちをすると、彼はアリアライトを一瞥して続ける。
「城にいる騎士どもには、特殊な呪いが掛けられててな――定められた空間に限られるが、そこでならいつでも意識を奪い、操り人形にできる悪趣味な呪いだ。あの牢獄は、その領域内だったのさ」
「呪い……アリアが?」
びっくりした顔できょろきょろと自分の体を見回す彼女に、キースは仏頂面のまま、
「解呪は簡単だ。そこの聖女様にでもやってもらっとけ」
そう彼が告げると、隣にいたラーイールがアリアライトの傍に寄って解呪の呪文を唱え始める。
さて、そんな状況の中――我に返った俺は、眼前で腕を組むキースに向かってたまらず質問を浴びせかけた。
「キース。……なんであんた、俺たちを助けたんだ? あんたは……」
「敵じゃないのか、ってか?」
先回りしてそう言って唇の端を持ち上げると、キースは肩をすくめて続ける。
「それは、こっちのセリフだがな。ウォーレス――お前が親父に呼ばれたのは、手駒にするためだと思っていたから」
「手駒? どういうことだ」
ますます分からない。怪訝な顔になった俺に代わって、沈黙していたラーイールが口を挟んだ。
「あの、キース様……貴方が、私たちを牢に閉じ込めたんじゃないんですか?」
「ああ、違う」
そう言ってその場に座り込むと、彼は頭をかきながらこう告げた。
「勇者たちを騙して閉じ込めているのは……親父だ」
その答えに、眉をひそめるラーイール。
「ガードリー、伯爵が? 何でそんなことを……」
「知らねえよ。知らねえから俺はこうして、あのクソ親父の身の回りを嗅ぎ回ってたのさ。だってのに勇者どもが捕まったり、てめぇらがホイホイ呼ばれてきたり――そのせいで随分と予定が狂った」
舌打ちしながらぼやくキースに、俺は半信半疑になりながらも問いを被せる。
まだ、完全には信用できない。しかし少なくとも……俺たちの窮地を救ったのもまた、彼に他ならないのだ。
「キース。あんたの知ってることを、全部教えてくれないか。場合によっては、協力できるかもしれない」
「【英雄】様がか。そいつは、心強いな」
どこか皮肉げにそう言ってくく、と笑うと、彼はゆっくりと、口を開き始める。
「なら、まずは結論から言おう。……あのクソ親父はな、どうやら魔王とやらを蘇らせようとしているらしい」
……告げられた内容に俺たちは、ただ言葉を失うばかりだった。
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