【41】一件落着、そして。
それから次に目覚めた時、俺はいつもの宿の自室に寝かされていた。
事の顛末をソラスに尋ねると、どうやらあの後彼女たちはちゃんと第二層まで潜って、封印の補強まで終わらせることができたらしい。
「モンスターもどうやらあの一層にほとんど押しかけてきてたみたいで、奥の方は静かなものでした」
というのがソラスの言。
ともあれそんなこんなで無事に目標は達成されて。多少の怪我人こそあれ犠牲者などもなく、参加した冒険者たちも皆無事に帰還。
今回の大規模討伐は、大成功と相成ったわけである。
……それで、その後の話。
なんだかんだでそこそこ消耗していたせいもあって、あれから一両日ほど眠りこけていた俺。
目覚めた後の俺に――冒険者ギルドから、招集がかかっていた。
ソラスに訊いても、「分かりません」と首を傾げるばかり。
クエストの報酬の話とか、その辺りだろうか……と高をくくりながら翌々日、冒険者ギルドへと足を運ぶことにした。
するとそこで、俺は思わず足を止める。
「……何だ何だ? どした?」
あの閑散とした、おんぼろギルド社屋に――今日はどうしたことか、溢れんばかりの人の山が詰めかけていたのだ。
若者から年寄り、男女問わず様々な人でごった返すそこを遠巻きに見ていると、その時横合いから声が掛かった。
「ああ、ウォーレスさん!」
声の主は禿頭の局員、ゲハルトである。
「お体はもう平気なんで?」
「もともと、怪我は大したことなかったからな。どうも歳をとると体力の戻りが悪くてイヤになるが」
「はは、そうですかい。まあお元気そうで何よりです」
そんな挨拶を交わしつつ、俺は目の前の混沌を指差しながら彼に問うてみた。
「なあ、どうしたんだこりゃあ。何か不祥事でもやらかしたのか」
「なんでそっちになるんですか。違いますよ、この人たちは冒険者登録を希望する冒険者さん方です」
そんな彼の意外な答えに、俺は思わず素っ頓狂な声を出した。
「冒険者ぁ? 何でまた」
「一昨日の大討伐クエストの顛末が、早くも方方で評判になっているみたいで……。それでうちの冒険者ギルドに登録希望者が殺到しているんですよ」
「なんとまあ、ミーハーな……」
そんな軽い気持ちで登録とかするものなのか、と半眼で彼らを眺めていると、ゲハルトが話を続けた。
「それより。今日いらっしゃって頂いたのは、例の件でですかね」
「ああ、そうそう。俺宛に招集が掛かってたってソラスから聞いたんでな。……何の用事なんだ?」
そんな俺の問いに、けれどゲハルトは首を横に振る。
「分からんです。ただまあ、ノルドさんはそこそこ急ぎで話したいって感じでしたが」
「そうかい。……分かった、ありがとう」
そう礼を言うと、ゲハルトは肩をすくめて苦笑する。
「お礼を言うのは俺たちの方っすよ。ウォーレスさんがあの【十天】の生き残りを倒してくれていなければ、今頃どうなっていたか。ウォーレスさんは俺たちの……いんや、この街の恩人と言っていいくらいです」
「大げさだ」
そんなやり取りの後、俺はゲハルトに連れられて裏口から社屋に入る。
薄暗い廊下を抜けて、「局長室」と書かれた扉をノックすると――「どうぞ」と中から声が聞こえてきた。
「入るぜ」
扉を開けると、中にいたノルド氏がこちらを見てぱあっと表情をほころばせる。
「ああ、ウォーレスさん。よく来てくれました……もう動けるのですか?」
「さっきもゲハルトから同じことを訊かれたよ。大丈夫だ、もうピンピンしてる」
そう苦笑交じりに返した後、手近なソファを勧められて座ると――俺は向き直ってノルド氏に問う。
「あんたから招集があったと、ソラスに聞いた。……なんの話なんだ? まさかまた、あのダンジョンで妙なものでも見つけたとかそういう不穏な話じゃないだろうな」
「いえ、そんなことはありません。封印門の魔素結晶はちゃんと取り替えましたし、今では一層の結界も元通りになっております。もうあんなことは起こらないでしょう。お話というのは……その、ウォーレスさんご自身についてのことでして」
「俺?」
そう訊き返すと、神妙な顔で頷くノルド氏。どうも、思ったのとは別方向で雲行きが怪しくなってきた。
「ウォーレスさんは、この街にいらっしゃってから……これまでにも街を困らせる野盗連中の撃退だとか、局員たちへの指南ですとか、色々なことを引き受けてくださいました。しかもその上今回は、中央遺跡――あそこで起こっている危機をもいち早く察知して、のみならずご自身で進んで、対処を申し出て下さった」
「……あー、まあ、な。流石に放っておけないだろう、ありゃあ」
なんとなく褒め殺しのようで照れくさい。ぽりぽりと頬をかく俺をじっと見つめながら、ノルド氏はその手を組んで続ける。
「ウォーレスさんのおかげで、まだたったの一週間と少ししか経っていないにもかかわらず、この冒険者ギルドの評判が徐々に上がりつつあります。見たでしょう、表のあの冒険者さんの数」
「ああ。いきなり大人気じゃないか」
冗談めかして言う俺に、ノルド氏は真面目そうに「はい」と頷く。
「あの、グラスという隣街の冒険者のこともありましたし……何より今回の大規模クエストの顛末は、外様の冒険者たちもすでに噂しています。『あの追放者ギルドの連中が、【十天】の残党を倒したらしい』と」
「そうなのか。ならまあ、俺が頑張った甲斐もあったってもんだな」
「ええ。今回の一件でうちの支援術士たちの有用さも宣伝できましたし……何よりウォーレスさん、貴方の存在が、彼らにとっては大きな道標になりつつある」
「……あんたもあんたで大げさなことを言うなぁ」
「大げさなどではありません。なにせ今回のことはどれひとつとして、ウォーレスさんの力なしには成し遂げられなかったことですから」
そう言って微笑むと、ノルド氏は居住まいを正して俺を正視する。
「それで……ウォーレスさん。今回ウォーレスさんに来てもらったのは、そういったことを鑑みてのことです」
「……話が見えないが。つまり?」
訊き返す俺に、ノルド氏はたっぷりと溜めに溜めた後、やがて重々しく、こう続けた。
「ウォーレスさんを――ぜひとも正式に、この冒険者ギルド支局の局長として任命したいのです」
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