【38】黎明殻アルノラトリア<2>
真正面から振り下ろされた重斧の一撃を、俺は剣を構えて正面から受け切る。
金属同士の打ち合う重々しい音とともに、腕に伝わるのはずっしりとした衝撃。やったことはないが、大砲の弾でも受け止めたみたいだ。
鍔迫り合いの中で俺は【鑑定】スキルを応用してアルノラトリアのステータスを視――そこで思わず瞠目する。
アルノラトリア/レベル***
【生命】89400
【精神】650
【力】9800
【魔力】420
【防御】42000
【敏捷】920
【器用】650
【抵抗】900
【魔法抵抗】42000
ステータス99991とかを見慣れているからかまだ衝撃は少ないが、とはいえバカげた数値にもほどがある。
現勇者エレンが、たしか装備品まで含めての【力】が4500程度。力自慢の重戦士ゴウライで6800くらいだったと記憶している。
この防御力では彼らをしても、それこそ支援魔法をあらん限りに重ねがけしてようやくダメージを通せるレベルであろう。
先代勇者はよくこいつを殺せたな、と思わず苦笑しそうになりながら、俺は重斧を跳ね除けて剣を構え直し――今度はこちらから踏み込む。
……敵のステータスは、とんでもない。
だがそれでも、言っちゃあなんだがこちらの方が、まだまだ規格外だ。
迎え撃とうと重斧を振りかぶるアルノラトリア。だがその動きを見切るのは難しくはない。
振り下ろされた一撃を紙一重のところで躱しながら、俺は剣撃を奴の懐に撃ち込む――!
「……なっ!?」
だがそこで、思わず声を上げたのは俺の方だった。
渾身の力で叩き込んだはずの一撃が、奴の周りを漂う光鱗によって――阻まれていたのだ。
『っ、らァ!』
一瞬反応が遅れたところにアルノラトリアの返しの一撃がかすめて、頬に一筋朱が走る。
後ろに跳んで距離を取ると、俺は奴の光鱗を注意深く観察する。奴の防御力は高いが――今の俺で貫けないはずはない。なのに、何故?
『【反応防御】……この鱗は、受けた攻撃の威力に応じて硬度が上がるのさ。だからどんな馬鹿力だろうが、どんな名剣だろうが斬れやしねェ――たとえその【剣】だろうとな』
そう言って俺の手の剣――【天啓の枝】と腕輪とを一瞥するアルノラトリア。その口ぶりはまるで、これが何なのかを知っているようだった。
それはそれで気になったが、今はそんな問答をしている局面でもない。
「ウォーレスさん、どうしましょう……」
不安げに問うてくるソラスに、俺は難しい顔のまま頷く。
「大丈夫だ。あんなことを言っちゃあいるが、何か手はあるに決まってる。あいつは10年前、勇者に負けてるんだから」
そんな俺の言葉に、アルノラトリアは不愉快げに眉間を険しくして。
『ナメてくれてんなァ、おい? ……ならいいぜ、この俺を斬れると思うなら斬ってみろよ』
そう言ったかと思うとなんと、その手の重斧を地面に突き立てて両手を無防備に広げてみせる。
『一撃だ。一撃だけ、俺は一切反撃せずにいてやる』
「んだと……」
きらきらと煌めく鱗を周囲に漂わせたままそう言って不敵に嗤うアルノラトリア。
俺はしばし逡巡して――意を決すると、剣を握り直して一直線に駆ける。
そんな俺の後ろから、ソラスとリクトの二人が強化魔法を詠唱。白い剣身が緑がかった美しい燐光を纏う。
「っ、食らえ……ッ――!」
先ほどよりもさらに引き絞って繰り出したその一撃は周囲の空気を震わせて、衝撃で地面をめくり上げる。
それほどまでの斬撃を、光の鱗は正面から受けて……ぴしりと、わずかに亀裂が生じて、けれど。
『……おお、こいつは随分とおっかねェ威力だな。だが――だからこそ、良くねえな』
何故か笑みを浮かべたアルノラトリアに、何を言っている――そう俺が疑念を抱いたその瞬間。
びりびりと空間が軋み、鱗がひときわ強い光を放って――周囲に浮かんでいた無数の鱗たちもまた同様に輝き始める。
何だ、これは? 本能が警鐘を鳴らして、俺はとっさに剣を引こうとしてしかし。
『”強力な力は、それを持つ者すら滅ぼす”――残念だったなァ、人間?』
瞬間――鱗から膨れ上がった眩い光は俺ごと爆ぜて、破壊の炎を辺り一面に撒き散らした。
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