【36】遺跡ダンジョン-大規模討伐クエスト<2>

 パーティ編成を整えた結果、俺はソラスと二人パーティで潜ることにした。

 というのも――パーティメンバーは少ない方が【共闘の真髄】のステータス上昇効果を十全に活用できるからだ。

 今のソラスのステータスには、全ステータスまるまる+9999が加算されている。これならばデュラハンだろうが一人で相手することも可能だろう。

 残りのメンバーに関しては、ゲハルトら前衛とノルド氏、そこにリクトたち局員の支援術士を多数編成した小隊編成と、外部参加の冒険者たちが個別に編成したパーティたち。そこに残りの支援術士たちを組み込んで全体戦力の底上げをする形にしている。

参加者の平均レベルは30~40程度だが、支援魔法があればデュラハン級にも太刀打ちはできるだろう。


そうして準備を整えて、ダンジョン第一階層への階段を降りていった俺たち。

 だが――そこで、開始早々に俺とソラスはその違和感に気付く。


「……ウォーレスさん、『空』が――前来た時と違います」


「ああ。……なんだこりゃ、どうなってる?」


 ダンジョン第一層。空間の書き換えによって広大な平原地帯が現出しているそこには、果てなく広がる青空があった。

 だが今は――その空の端がひび割れて、そこから漆黒色の闇が侵食しつつあったのだ。

 その光景を前に戸惑う俺とソラス。その横で、魔法で辺りのモンスター配置を探知していたリクトが首を傾げた。


「……変ですね、この層にはまるでモンスターの反応がありません」


「何?」


 俺もまた【事象視】――周辺探査のスキルを使って確認してみると、確かにまるで反応がない。

 奇妙に思う俺たちだったが、とはいえじゃあ何か危険があるかというとそういうわけでもない。

 外部参加のパーティたちが構うことなく進軍を開始するのを見て、俺たちもまた前進しようとして……と、その時だった。


「……っ、急に反応が! 皆さん、警戒を!」


 リクトの叫びとほぼ同時。上空のひび割れがにわかに拡大して――そこから無数のモンスターたちが降ってきたのだ。

 デュラハンにドラゴンゾンビ、メイズスケルトン。どれもレベル50以上はある強力なモンスターたちだ。


「ひ、ひぇぇ……」


 その大群を前に圧倒されただれかが悲鳴をこぼす。皆がたたらを踏むそのさなか――俺は腰の剣を引き抜くと、一目散に群れの中央へと単騎駆けした。


 【影歩】での高速接敵からの一撃で、前衛のスケルトンどもを薙ぎ払う。粉砕されてそのまま消え失せたスケルトンどもを確認することなく、そのままこちらに斧を振りかざしていたデュラハンの胸甲ど真ん中に一撃。


「【劫火よ】【焼却せよ】【今】――!」


 ソラスの詠唱が聞こえて、俺は反射的に後ろに跳ぶ。すると彼女の放った魔法――炎系上級範囲魔法【バーングラウンド】が辺りのモンスターをまとめて呑み込み、超高熱によって灰すら残さず焼き払った。


「わぁ……試しに詠唱してみましたけど、本当に使えるとは」


 【共闘の真髄】でのステータス上昇で、本来扱えないレベルの高位魔法をも使えるようになっていたようだ。これならかなり、頼もしい。


 俺たちが荒らし回って敵の前衛は崩れて――するとそれを見て、味方たちも少し戦意を取り戻したらしい。

支援術士たちが一斉に全体強化を詠唱し、その光が各パーティを包み込む。そのさなかで意を決して飛び出したのはスキンヘッドの局員、格闘家のゲハルトだった。


「いくぜ……ウォーレスさんに、続けぇ!」


 ふんだんに強化の掛かった彼の拳は立ちはだかるデュラハンの鎧を正面から打ち据えて、砲弾でも当たったかのような大きな風穴を開ける。


「さっすがアニキっす! 俺も!」


 子分のモヒカン局員もそう言うと腰の短剣を抜いて、這い回るドラゴンゾンビへと向かってゆく。他の前衛冒険者たちも、我も我もと各々の武器を携えてモンスターへと立ち向かい始めた。


「ウォーレスさん、ウォーレスさんは二層に先行して下さい! ここの敵は我々が処理します!」


 そう叫んでメイスでスケルトンを砕いたノルド氏に、俺は「わかった」と頷く。

 するとノルドさんは空いた手で腰の荷物入れから何かを取り出すと――それを俺に向かって投げてきた。

 受け取ってみるとそれは、手のひら大の透き通った玉である。


「これは?」


「封印門の維持のための、魔素結晶です! 壊れているものと取り替えれば、封印が再び正常化するかと!」


 そう返したノルド氏にもう一度頷くと、俺とソラスは下層への階段があった方角へと向く。

 奇妙に統率の取れた動きでもって俺たちの進路に立ちふさがろうとするモンスターたち。倒すことは難しくないが、しかしこれは少し時間が掛かりそうだ。

 何か手があるとよいのだが。そう考えた俺はふと、久々にアレを呼んでみることにした。


「メガミ、いるか」


『どうされましたかね、私を都合のいいゲームのチュートリアルキャラだと思わないで欲しいのですが』


「意味の分からんことを言うな――時間は取らせない。俺の手持ちのスキルで、こいつらをすぐに切り抜けるいい方法はないか?」


 そんな俺の問いかけ(ソラスに不自然に思われそうだったので、口には出さず思っているだけだが)に、メガミは『そうですねぇ』と思案した後呟いた。


『【戦理撹乱】が役に立つかと』


「どうやって使うんだ、それは?」


『ご安心を。自動発動スキルなので、すでに発動しています――さあ、試しに群れのど真ん中に突っ込んでみて下さい』


「殺す気か?」


『貴方なら直撃してもデュラハンの剣の方が砕けますよ。さあ、ほら』


 そんなメガミの言葉に半信半疑になりながらも、俺は真正面から敵陣ど真ん中へと駆けていく。


「ウォーレスさん!? 流石に危険では――」


 ソラスの制止ももっともだったが、この正体不明のスキルを理解するいい機会である。

 四方をモンスターに包囲され、俺は応戦しようと剣を構えて――けれどその時メガミが横で呟いた。


『戦わないで、そこで棒立ちを』


「はぁ!?」


『いいから、いいから』


 そんなやり取りのさなかで、正面のドラゴンゾンビが腐敗のブレスを放ってくる。

 もろに、直撃する――思わず目を閉じた俺だったがしかし、次に目を開けてみると、俺自身はなんともない。

 代わりに……俺の背後にいたデュラハンが、腐敗の魔力に全身を侵されて崩れ落ちようとしていた。

 それだけではない。横からこちらに向かって槍の一撃を食らわせようとしていたスケルトンも、反対側にいるスケルトンと同士討ちを起こしている。

 困惑する俺に、メガミが小さく笑いながらこう告げた。


『【戦理撹乱】。これは集団を相手にした時、敵から自分への攻撃の命中率を極端に低下させるスキルなんです。そしてその結果、同士討ち状態になると』


「エグいスキルだな……」


『ちなみに多数相手じゃないとあまり効果は出ませんので。と言っても、そもそもウォーレスさんのステータスだと回避も必要なさそうですが』


 それだけ言い残すと『ではー』とだけ残して姿を消すメガミ。その間にも周囲ではモンスター同士の同士討ちが起き続けていて、俺の前に立ちはだかっていた一群はまたたく間にその数を減らしつつあった。


「ソラス、今だ――奥まで一気に走るぞ!」


「え、ああ、はい……!」


 そんな光景をぽかんとしながら見ていた彼女に声をかけて、俺とソラスは平原を走る。

 目指すは地の端、下層へと向かう階段。しかし、


『まァ、待てよ人間』


 頭上から降ってきたその声に、俺はとっさにソラスの手を引いて横へと転がる。

 刹那――轟音とともに、つい今までいた場所の地面から土煙が立ち込める。

 それが晴れると、そこには巨大なクレーターができていて。

 そしてその中央に、あの竜頭の男……アルノラトリアが、重斧を構えて立っていた。

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