【34】ウォーレス教官は見守るだけ

「……それで、そのイヤーな感じの剣士さんがたは結局どうしたんですか」


 街へと帰って諸々のことを済ませて、その日の夕。

 宿の食堂で夕飯を食べていると、向かいに座ったソラスが訊いてきた。

 そんな彼女に俺は、卓上に置かれたワイルドボアの香草焼きをつつきながら、


「どうもこうも、普通に手当てして帰してやったが」


「謝罪の言葉とか、土下座とかさせたりは」


「しないが。っていうか後者はさせてたら逆にドン引きだろう」


「そりゃまあそうですけれど」


 どこか不服げに頷くソラスに、俺は肉を口に運びながら続ける。


「ま、今回の一件であいつ……リクトの奴も自分を追放した連中に目にもの見せてやれたし、丁度良かったさ。ついでに助けてやった対価として、隣街の冒険者ギルドからでも援軍を募ってもらえることになったしな」


 グラスたちはああ見えて、隣街のギルドではけっこうな稼ぎ頭であったらしい。

 そんな彼らを助けたということもあって、隣街の支局から今回のダンジョン調査の一件について救援の申し出があったらしいとノルド氏からは聞いていた。

 どうやらグラスたち自身がそれを進言してくれたらしいとも聞くが……まあ、実際のところはどうやら。


「ここの局員たちもそこそこ育ったし、援軍のアテもできた。万々歳ってもんだろ」


「むぅ……」


 なおも唇を尖らせる彼女に、俺は首を傾げた。


「……何が不満なんだ?」


「別に、不満とかじゃないですけど。そいつら、ウォーレスさんを馬鹿にしたわけじゃないですか」


「まあ……一応な」


「それで結局、特に謝ってもらうこともないままじゃ――ウォーレスさんが馬鹿にされっぱなしみたいで、なんか、モヤモヤするというか」


 ソラス自身もいまひとつはっきり言語化できずにいるらしい。眉根を寄せながらそう呟く彼女に、俺は苦笑しつつ肩を揺らした。


「ありがとな、ソラス」


「……別に、お礼を言われる筋合いはありませんが」


「ならこの美味い料理の礼ってことにしといてくれ」


 そう返した俺に、ソラスは少しだけ頬を赤くしながら小さく頷いた。


――。

「ところでウォーレスさん。支援魔法ってすごいんですね。支援魔法を掛けただけでたった一人で変異種のモンスターを倒せちゃうようになるなんて……って、ん?」


 そう言いかけたソラスが、何か引っかかった様子で首を傾げた。


「ウォーレスさん、その時ってウォーレスさんとリクトさん、パーティを組んだままだったんですか?」


「ああ」


 表情を変えずに頷いた俺に、ソラスは眉間にしわを寄せながら考え事をするように呟く。


……。だからウォーレスさん、手出ししなくても大丈夫と思ったんですか」


「さあ、どうだろうな」


 そう返すと、俺はにやりと小さく笑うのであった。


 【共闘の真髄】。パーティメンバーに、自分のステータスの1/10だけ付与することができるスキル。

 そんなものの加護があってもなくても――きっと彼は、己を追放した幼馴染を守っただろう。

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