【30】追放する者、される者<1>
「うわ、お前かよ。なになに、そんな大所帯でよ……ああなるほど、引率してレベル上げてもらってんのかよ。恥ずかしっ」
グラス、と呼ばれていた剣士の言葉に、表情を曇らせるリクト。
そんな二人に割って入ると、俺はそこで口を挟んだ。
「……あー、なんだ。あんたらもレベル上げの最中だったらすまない。けど見た感じ、あんたらの方が後から来たみたいに見えるんだが」
「は? 何このおっさん」
じろりとこちらを睨んで、グラスは露骨に舌打ちしてくる。
若干イヤーな感じだが、ここで変に角を立ててもろくなことにはならない。聞かなかったことにして俺は再び口を開く。
「俺はこいつらの手伝いをしてる者だ。……まあ確かにあんまり上等なレベル上げじゃあないが、とはいえこの狩場は俺たちが先に使い始めてる。悪いが今日のところは他を当たってくれると……」
「は、関係ねえだろ。ここは俺らの場所って決まってんだよ」
「レベル上げの狩場は原則、先に見つけた者が使う――冒険者ギルドの方針ではそうなってたはずだが」
そう俺が返すと、イライラした様子でグラスは腰の剣に手を添えながらもう一度舌打ちする。
「んだよ、うるせえな……。てめえもそのゴミの仲間ってことは、レギンブルクの掃き溜めギルドにいるんだろ。そんな奴に指図される謂れはねえ。おっさん、怪我したくなかったらとっととそいつら連れて出ていきな」
「そういうわけにもいかない。こっちもこっちで、早くレベルを上げないといけない用事があるもんでな」
そんな俺の返事に、いよいよグラスは顔を歪ませて剣を引き抜くと、俺の喉元向けて突きつけてきた。
「やめろ、グラス! 冒険者同士での私闘はご法度だ!」
「るせえな、ゴミ野郎。俺はあくまで忠告してやってるんだぜ、このおっさんによ」
そう言ってニヤニヤと底意地の悪そうな顔で嗤うグラスの前で、俺は小さく肩をすくめる。
「いや、そういうのはやめといた方がいいぞ。怪我でもしたらお互い困るだろ」
「……あ? なになにオッサン、それどういう意味?」
「やめとけっつってるんだよ。子供が粋がっておもちゃを振り回すな」
もう少し穏便にことを収めたかったのだが、我ながら言葉尻が尖ってしまった。
そのせいもあってグラスは完全に頭に血が上ったようで、俺に向けていた剣をそのまま勢いよく振るってくる。
「ウォーレス教官!」
悲鳴を上げるリクト。だがしかし――グラスの振るった剣の刃先は、俺が挟んだ指先に触れて止まっていた。
「は……?」
「だからやめろって言ってるのに」
言いながら俺は人差し指と親指とで刃先をつまむと、そのまま軽く手首をひねる。
次の瞬間、剣を握っていたグラスの体全体がぐるんと一回転して、ぬかるんだ地面の上に叩きつけられていた。
ついでに彼の剣のほうも、だいぶ安物だったらしくそれだけで刃がぐにゃりと曲がってしまっていたが……まあ正当防衛は後ろの冒険者ギルド局員たちが証明してくれるので大丈夫だろう。
「ほら、立てるか」
泥だらけになったグラスに手を差し伸べると、彼は俺を見て、それからリクトと見比べて、呟く。
「ウォーレス……? リクト、今お前、ウォーレスって言ったか? あの、【極限】の?」
「はい。その方は【極限】のウォーレスさん……今レギンブルクの冒険者ギルドに所属して下さっています」
そんな彼の言葉に、グラスも、そして後ろで見ていたパーティメンバー二人も露骨に表情を変えて俺を見た。
つくづく、無駄に名前だけは有名だったらしい。
「……くそ、覚えてろよ、てめえら……! 後悔させてやるからな」
そんな捨て台詞を吐き捨てて立ち去っていく3人を見送ると、俺は大きくため息を吐き出してリクトを見た。
「……なあ、あいつらは?」
「ええと、その……もともとレギンブルクの冒険者をしていたんですが、他所のギルドに移籍した人たちで。あと…………僕の、昔のパーティメンバーでした」
「昔の? ……ってことは」
俺の言葉に、リクトは落ち込んだ表情で頷く。
「……はい。僕は彼らのパーティから、追放されたんです」
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