【28】そして彼女はノーパンで帰る
ダンジョンを脱出してからも一応の警戒はしていたが、結局あの竜頭の男――アルノラトリアが外まで追撃を仕掛けてくるというようなことはなかった。
第一層の封印が強固であるから追うに追えなかったのかもしれないし、あるいは別の理由があってのことかもしれないが……ともあれ俺たちはダンジョンを出た足で、そのまま冒険者ギルドへと向かうことにした。
中で見たことを、報告するためだ。
「……なるほど。深層の封印が崩れかかっていて、しかも、かの【十天】を名乗る魔族まで暗躍していると」
冒険者ギルドの応接間。俺たちの話をひととおり聞き終えると、局長代理のノルド氏は難しい顔をして呻いた。
「それだけじゃない。第二層にはヤバいモンスターがうようよしてる。あの調子じゃじきに一層まで溢れてきてもおかしくはないぜ」
「それは困りますな……。あのダンジョンに何かあれば、街全体にも危険が及んでしまいます。由々しきことだ」
そう言って、困りきった様子で首を横に振るノルド氏。隣に座っていたアリアライトも、そこで口を開く。
「騎士団には連絡を送ったけど、今すぐに隊を送ることはできないって言われちゃった。でも……」
「あの妙なトカゲ頭さんのこともありますし……早くに手を打たないと、何か良からぬことが起きそうです」
言葉を挟んだソラスに、ノルド氏は眉間のしわを深くしながら頷く。
「そうですね。大規模討伐の告知を出して、参加者を募ることにしましょう。うちの局員たちも総出で動員すれば、少しは足しになるはずです。とはいえ局員の手練を集めてもせいぜい10人程度で、あとは新人同然の連中ばかりですが……」
「10人か……。局員以外の登録冒険者は、集められそうなのか?」
俺の問いに、ノルド氏は首を横に振る。
「分かりません。が、あまり期待はできないでしょうね……。以前にも言いましたが、この街の冒険者ギルドは『追放者ギルド』としてその……あまり評判のよいものではありませんから。ここに登録していた方でもよその街に移籍してしまったり、
あるいは自由冒険者になってしまう方も多くて――」
「そうか……」
人員を募るにも、ギルド自体の名声が足りていないというわけだ。
とはいえ、じゃあ諦めようというわけにもいかないし、人が集まるまで悠長に待つのもリスクが高い。
もしもあの竜頭の男がさらに深層の封印を解こうとしているなら……一刻も早く先手を打たなければ。
そんな思考の末に、俺は頭をかいて頷いた。
「……無理を言ってすまない。けど、頼む」
「分かりました。では……5日ほど猶予を下さい。それだけあれば少しは人手も集まるかもしれません。ダンジョンの見張りも数を増やして、何か異変があればすぐに報告してもらいます」
「わかった。……ありがとう、ノルドさん」
「お礼を言うのは、こちらの方ですよ。ここは……私たちの街なんですから」
そう言ってくれたノルド氏に頭を下げて、俺たちは応接間を後にする。
ギルドを出ると、そこでアリアライトは少し離れてこちらへと振り返り、申し訳無さそうにうなだれた。
「……あの、ごめん、なさい。本当は騎士団がやらなきゃなのに……」
「気にするな。騎士の手が回りきらないような仕事をカバーするのも冒険者の役目ってな。君が気にする必要はないさ」
そう返した俺に、おずおずと頷くアリアライト。そんな彼女に、ソラスが口を開いた。
「アリアライトさんはこれからどうするんですか?」
「アリアは……調査が終わったらまた騎士団に戻れって言われてるから、ここでお別れ。その……ありがとう、助けてくれて」
そう言ってぺこりと頭を下げる彼女に、俺は軽く手を振って返す。
「次に来る時には、騎士団を連れてきてくれよ」
「うん……。直接クロムちゃん……騎士団長に会って、話してみる」
そんなやり取りの後で、アリアライトは俺たちに別れを告げて立ち去っていく。
その後姿を見送った後で、ソラスがぽつりと口を開いた。
「……あ」
「ん、どうしたソラス」
「いえ、ひとつ思い出したことが」
「ん?」
「アリアライトさん……下着なしのまま行っちゃいました」
「あ」
なんともしまらないオチにもほどがあった。
一応今、めっちゃシリアスな状況のはずなんだがなぁ……。
■
それはそれとして、冒険者ギルドから宿へと帰る帰り道。
「そういえばウォーレスさん。色々ありすぎてご報告し忘れてたんですけど、レベル30になってました」
「30!?」
唐突なソラスの申告に思わず訊き返す俺。確か今日ダンジョンに潜った時には15とか言っていたはずだが。
「多分あのデュラハンの経験値が相当だったんじゃないかと」
「ああ……確かに、君からしてみりゃとんでもない強敵のはずだしな」
冒険者カードの仕様として、レベル差が大きく開いた相手とパーティを組んでいても経験値の減衰などは起こらない。
そのため高レベルの冒険者に高額の報酬を支払って、一緒に戦ってもらうことで早くにレベルを上げる……という方法をとる者もいるという。
技術的、経験的に未熟なままレベルとステータスだけが上がってしまうため、騎士団などの組織ではこうした方法は採用せず、地道な鍛錬を推奨しているとも聞くが。
「ま、おめでとう。……ってまさかお前、この調子でレベル上げ付き合えとか言うんじゃないだろうな」
「言いませんって。うちのお父さんも『レベル上げは自力でやるもの』ってよく言ってましたから。……そうではなく、ひとつ思いついたことがあるんですよ」
「思いついたこと?」
眉根を寄せる俺に、ソラスは得意げな顔をして指を立てる。
「それはですね――」
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