【21】いざ、ダンジョンへ

「いい買い物だった。ありがとう、ソラス」


 店を出て、再び何やら指向性を持って歩き始めるソラスを追いかけながら礼を言うと、彼女は俺の方を振り向いてふふん、と喜ぶ。


「どういたしまして。それじゃあ用事も済んだところで、本題に移りましょうか」


「本題?」


「ええ。今日はウォーレスさんに、ぜひとも私のレベル上げに付き合って頂ければと」


「ああ、そういやそんなこと言ってたな」


 そう相槌を打って、とそこで俺はふと、彼女に問う。


「……ちなみに君は今、レベルはどのくらいなんだ?」


「ええとですね、この通りです」


 そう言ってこちらに冒険者カードを見せてくるソラス。

==================================

ソラス・トライバル レベル15 クラス:【詠唱士】

【生命】520

【精神】120

【力】9

【魔力】28

【防御】5

【敏捷】13

【器用】18

【抵抗】11

【魔法抵抗】25

==================================

 カードに記されたステータスを見て、俺は舌を巻く。


「すごいな、けっこうなレベルじゃないか。どこでこんなに上げたんだ?」


「宿の仕事でお父さんのお手伝いをしてたら、いつの間にかこんなことになってたみたいです」


 レベルというのはあくまでその個人の総合的な成長や鍛錬の積み重ねを表すものであるため、実のところモンスターと戦わなくともレベルを上げることはできる。

 それにしても15ともなると大したものだし、それにステータス……特に魔力の伸びは特筆すべきものだ。

 あのギルドの局員たちが勧誘したがるのも納得というものである。


「これなら、鍛えればいい術士になれそうじゃないか」


「そこまでの高望みはしませんけど。……でもまあ、昨日みたいな目に遭っても自力で打開できるくらいにはなりたいですね」


 ほんの少しだけ目を伏せてそう呟くソラス。昨日、野盗連中になすすべもなくさらわれてしまった一件は彼女にとって相当に口惜しい経験だったらしい。


「それに、強くなって冒険者としてクエストでお金を稼げればうちの宿も安泰ですし」


「そっちがメインか」


 なかなかにしたたかな根性である。

 肩をすくめながら、俺は「でも」と呟いた。


「それはいいとして、どこでレベル上げするんだ? この辺りのモンスターはだいたいレベル30やそこらだから、君のレベルじゃちょいと厳しいだろ」


「ええ。ですので、ギルドで案内されたダンジョンに行ってみようかと」


「ダンジョン?」


 彼女の言葉に俺は怪訝な顔をする。今歩いている方向は、街の外とは逆――どちらかというと街の中心方向へと向かっているのだ。

 だがソラスは俺の言葉に「ええ」と頷くと、ポケットから街の地図を取り出して言う。


「どうやらこの街の地下に、大規模な遺跡ダンジョンがあるらしいんです。外のモンスターとは違ってそのあたりは生息モンスターのレベルも低いから、新人冒険者の鍛錬場として丁度いいんだとか」


「なるほど……」


「あ、噂をすればアレでしょうか」


 通りを抜けて、拓けた場所に出る。青々とした芝が敷かれた広場の中央に、柵で囲われた古めかしい石造りの建物があった。

 入り口付近に立っている番兵に、ソラスが早速話しかけに行く。


「すみません、ここ、レギンブルク中央遺跡……で、合ってますか?」


「ん、ああ。そうだけど、あんたらは?」


「冒険者だ。鍛錬目的に来たんだが、入れるか?」


「ああ、大丈夫だよ。冒険者カードを見せてくれるかい」


 番兵の言葉に、俺とソラスはそれぞれカードを掲げてみせる。すると番兵は納得したように頷いて、


「よし、オーケーだ。それじゃあ気をつけてな。新人向けのダンジョンだが、最近はちょいと物騒な話も聞いているから」


「物騒?」


「ああ。このダンジョン、深層の立入禁止区域は危険なモンスターがうようよしていてな。原則立入禁止にして、下へ降りる通路も封印してあるんだが――最近どうしてか、上の方まで深層のモンスターが出てきてることがあるらしいんだ」


「そりゃあ、物騒だな。原因は調べてるのか?」


「騎士団に依頼は出してるんだが……あいにくと最近は何かと忙しいみたいでな、なかなか来てくれないんだ。ここの冒険者ギルドに頼もうにも追放者ばっかりのへっぽこだし……あぁ、いや、すまん。失言だった」


 バツの悪そうな顔で頭を下げる番兵に「気にしていない」と手を振って返して、俺は肩をすくめるとソラスとともに入り口の方へと向かう。


「気をつけてくれよな。妙なモンスターを見たらすぐに戻ってくるんだぞ」


「ああ。ご心配どうも」


 遺跡の入り口をくぐると、中には地下へと向かう大きな階段がある。

 俺とソラスは顔を見合わせると――揃って一歩を、下へと向かって踏み出し始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る