【8】おっさん VS チンピラ(?)<2>
「冒険者、ギルド……?」
「はい。そこのお嬢さん、病気の親父さんに代わって一人で街の外のモンスターのいる森まで薬草や食材を採りに行ったりしているみたいで、将来有望と評判なんですよ。だからぜひともうちのギルドで冒険者としてスカウトできればと……」
いきなりこなれた感じの敬語でそう言ってくるチンピラ……もといギルド局員。
「いやちょっと待て。さっきあんたらも『こんなボロい宿屋をやってるよりはよほど稼げると思うぜ』だの『まだガキなのは気になるが、そういうので喜ぶ客もいるしなぁ?』だの言ってたじゃねえか!?」
「え? そりゃあまあ冒険者稼業って当たれば一攫千金ですし」
「このくらいのお嬢ちゃんだと、お使いクエスト依頼してくるおばちゃんとか喜んでくれるんですよ。孫にお手伝いしてもらったみたい、って」
「紛らわしいわ!」
ぜえはあと息を切らせる俺を不思議そうに見つめる3人。なんだかすごく釈然としないものを感じる中で、「そんなことより」と格闘家の局員が仕切り直した。
「まさかあのウォーレスさんとこうしてお会いできるとは思っていませんでしたよ。勇者御一行がこの街に来てクエストを受けていったって話は局員づてには聞いていましたけど……。そういえば、他の皆さんはどちらに?」
「う」
「追放されたそうです、ウォーレスさん」
「なんと!?」
外野の宿屋の娘にあっさりとばらされた。この小娘め……。
「ウォーレスさんほどの方が追放ですか……。勇者パーティとはそんなにも厳しいのですね」
「いや、それはだな……」
「ですがそれでしたら、丁度いい!」
「人の話を聞いてくれ」
見事に俺の言葉をガン無視しながら、妙に爽やかな笑顔で局員は続ける。
「パーティを追放されたとなれば、先立つものなど不安もおありのはず! もしもこの街にしばらく滞在されるというのであれば、寝泊まりする場所も必要となるでしょう! そこで……ウォーレスさん、どうでしょうか。ぜひとも一度、我々の冒険者ギルドに来ていただけませんか?」
「ギルドにって……なんでまた」
「お恥ずかしい話ですが、その――とある事情から、ここの冒険者ギルドはあまり評判がよくないのです。そのせいで最近は依頼も減少傾向で、そうなると立ち寄る冒険者の方々も減るという悪循環で……。だからこうして我々も、少しでも腕の立つ新人を発掘できればと思い日夜スカウト活動をし続けているのですが、あまりよい成果は出ておらずでして」
評判がよくないのは局員がこんな見るからにチンピラ感漂う格好だからなんじゃないか、と喉元まで出かかったがぎりぎり言わずにいた。いや、言ってやったほうが親切だったかもしれないが。
そんな俺の内心の葛藤をよそに、局員はびしり! と俺を指差してこう続ける。
「そこで! ウォーレスさんのような強くご高名な冒険者がうちの支局で依頼をこなしているとなれば、きっといい宣伝になると思うわけです! 代わりにウォーレスさんのこの街での滞在、生活の負担は全てうちの支局で負担させて頂きましょう――どうですか、悪い話ではないと思うのですが」
そんな局員の言葉に、俺はむう、と唸る。
正直、悪い話ではない。認めたくはないが現実として、俺はエレンたちからパーティを追放され、この街にすかんぴんで置き去りにされたわけで……そうなると明日の飯、いやさ今日の夕飯だってありつけるか怪しい。
仕事をもらえる上にひとまず生活を保障してもらえるというのなら、万々歳の条件だ。
だが――
「……悪いが俺は、あんたらの期待に添えるような奴じゃない。これを見てくれ」
そう言って俺は半ばやけっぱちになって、己のステータスを開示する。
期待されるのは悪い気分ではないが、分不相応な仕事を押し付けられたらたまったものではない。バカにされるだろうが、それでも今のうちに真実を打ち明けてしまった方が後々の面倒は少ないだろう。
「俺のステータスは見ての通り。だから俺はパーティを追放されたんだ。分かったら――」
「……さっすがは【極限】……。なるほど、レベル9999ともなるとステータスもこんなことになってしまうんですね……」
感心しながら呟く局員。手下も、宿屋の娘までもが俺のステータス表示を同じような表情で見つめている。
……何かがおかしい。そう思ってポケットから冒険者カードを取り出して、俺は目を疑った。
「……何だよ、これ」
ウォーレス・ケイン レベル9999 クラス:【剣士】
【生命】1(+99990)
【精神】1(+99990)
【力】1(+99990)
【魔力】1(+99990)
【防御】1(+99990)
【敏捷】1(+99990)
【器用】1(+99990)
【抵抗】1(+99990)
【魔法抵抗】1(+99990)
そこに表示されていたのはそんな目を疑うような、バカげた数値の数々だったのだ。
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