第2話 片思いしてるお姉さん
俺が奈々瀬さんのことで知っているのは、本名が
近くにある大学に通う、現役の大学一年生で頭がいいということ。
そして配信者が好きという、この3つだけだ。
ちなみに家庭教師で色々教えてもらい始めてから、半年経っている。
ここまで情報が少ないのは、俺にコミュ力がないから。
でも、最近配信者が好きだという共通の話題のおかげで思いの外うまく喋れてる……。
いい加減、好きな食べ物とか嫌いな食べ物くらいから知りたい。いや、まずは彼氏がいるのか聞かないと。
雑談が始まるのは、家庭教師の時間が終わってから。
「お疲れ様。今日はこのくらいにしておこう」
隣に座る奈々瀬さんは、早速持ってきた資料をバックに入れ始めた。
なにか用事があるときはもう急いで帰っている。
つまり、今日は時間が有り余っているということ。
「奈々瀬さん。聞きたいことがあるんですけど」
「ん? なに?」
いきなり彼氏がいるのを聞くのはおかしいよな。
「その……異性について……」
「もしかして恋の相談?」
体をぐいっと寄せ、くいついてきた。
フローラルな優しい香水の匂いでどうにかなりそうだけど、気をしっかり持って。
多分今のくいつき様、奈々瀬さんは恋バナに目がないっぽい。話を合わせよう。
「あの、はい。そうです」
「おぉー……。何でも聞いて? こう見えて私、大学の友達の相談よく聞いてるから」
自信満々な顔。
友達のそういう相談にのるくらいだから、奈々瀬さんはさぞ経験豊富なんだろうな……。
とりあえず嘘の相談でもしておこう。
「ではえっと……」
「ちょっと待って。もしかして、きっきっきっ……きしゅの仕方?」
ん?
おかしいぞ?
「友達に相談されて困ったんだけど、キスはダメ。だってその……私だってしたことないし……。というか男の人と手も繋いだことないし……」
半分以上聞こえないよう小声で言っていたが、俺の耳はちゃんと聞こえている。
経験豊富そうだったけど。恋の相談を受けているだけで、奈々瀬さん自身はすごい初心だ。
未経験の俺でもキスの話題を出されたとて、あんな動揺しない。
「って、私のことはどうでもいいや。恋の相談だったよね。そうだねぇ〜……あっ、最近私も恋してるからそのこと話そうかな?」
恋をしてる、だと!?
「く、詳しく!!」
「んーと。どこから話せばいいんだろう……」
奈々瀬さんはそう言いながら、スマホを両手で持ち胸に抱き寄せた。
「出会いは本当に偶然。たまたまタップしたところに彼はいたの」
タップ……?
「一目惚れなのかな。顔はわからないんだけど、彼の声を聞いていたら「この人だ!」って思っちゃって……。多分、これが恋だと思うんだ。片思いってつらいねぇ〜」
「もしかしてその人って配信者です……?」
「うん」
口が空いて塞がらなかった。
片思い中の人がまさか配信者に恋に落ちるなんて、思いもしてなかった。
つらい。片想いはつらい……。
いや、まだ俺が入るすきがあるかも知れない。
「その恋を言葉に表したらどれくらいになりますかね」
「好き。結婚したい」
結構まじで恋に落ちてるやつだー!
「へ、へぇ〜……。ガチ恋って言うやつですね……」
「そうそう。昔は配信者にガチ恋するなんてどうにかしてると思ってたけど、今ならわかる。運命の人だって思っちゃったんだよね」
奈々瀬さんは恋する乙女の顔で語っている。
どうやら俺が入るすきなんて1ミリも残ってないらしい。
奈々瀬さんに片思いしてるっていうのに。
これから俺はどうすりゃいいんだ……。
片思いが実るには絶望的な状況だと知り、呆然としている俺を前に。
奈々瀬さんはその後も恋とはなんなのか事細かく説明し。満足して帰った頃には、俺の心はボロボロになっていた。
そこへ更にその心に追い打ちをかけるように。
「あ。フラレたおにいちゃんだ」
リビングから妹の面白がる声が聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます