美人だけど初心な家庭教師のお姉さんにはガチ恋してる配信者がいるらしい

でずな

第1話 とある底辺配信者

 人には誰にでも見せたくない一面があるものだ。


 高校2年生。成績は中の下。顔面偏差値も中の下。人間関係構築力は下の上。コミュ力は下の中。

 どれも平均以下の、どうしようもない陰キャは他でもない俺だ。

 だがこんな情報、人に見せたってなんとも思わない。

 

 そんな俺、青山あおやま真郎しんろうが絶対に誰にも見せたくない一面は……。


「はいどうもー。あれ? これ配信ついてるのかな?」


 そう、配信をしていることだ。

 と言っても、中二病全開の痛々しいことやネットでイキるようなことはしてない。


 ただスマホのカメラに向かって、コメントをたよりに喋る。

 もし俺を知ってる人に見られても「へぇそうなんだ」程度で済まされるだろう。だが、見られたくない。これは人として譲れない一線と言うやつだ。


「お。よし。映ってる映ってる」


 一応、万一を備え首より上を画角から外している。

 もちろん部屋から身バレされることも備え、配信画面に映るところは真っ白な布を被せているのでバッチリだ。

 

 カリカリペンギン|イチコメ


「カリカリペンギンさん、いつもイチコメしてるなぁ〜。まぁ人いないからし放題か」


 ちなみに俺は平均同接一桁の底辺配信者だ。


 お金儲けのためではなく、ただ趣味として配信しているので何とも思ってない。


 カリカリペンギン|コメントしてる人も一人

 坊主いんげん豆|いるが?

 

「おっ今日は早いじゃん。けど残念。イチコメはカリカリペンギンさんなんだよね」


 坊主いんげん豆|カリペンさん早すぎだろ

 カリカリペンギン|全○待機全○待機


「伏せ字になってるじゃん。……けどそっか。なんか俺の配信待ってくれてる人がいるって思うと嬉しな」


 カリカリペンギン|えへへ

 トマトは野菜の王|えへへ

 abbbbbb|えへへ

 坊主いんげん豆|えへへ


 今配信してる時間は学校から帰ってすぐの、16時20分。

 平日の昼間から底辺配信者の配信を見てるこの人たちは一体何者なんだ……。おっと。この疑問を持つのは禁忌にふれそうだな。

 いや、ここは底辺配信者の配信。禁忌に触れても大丈夫か。


「……ってことで、みんなの職業教えてくれない?」


 聞きたい理由をしっかり説明したのに。

 全くチャットが来なくなった。


「なんかごめん。ちなみに俺は学生してる」


 カリカリペンギン|声が声変わりしたあとのショタ

 坊主いんげん豆|絶対身長低いでしょ


「たしかに俺の身長163cmで小さいのは認めるけどさ。声が声変わりしたあとのショタってのはよくわならんな」


 カリカリペンギン|ショタ可愛い

 トマトは野菜の王|俺はオールジャンルいける口

 坊主いんげん豆|ショタいいじゃん……優しくするからちょっと顔見せようか


「怖っお前ら怖っ。こういうのセクシャルハラスメントって言うんじゃないの?」


 トマトは野菜の王|うむ


 わかっててしてるのさすがネットの民。


「あっ」

 

 ふと時計を確認すると、その針は16時30分を差していた。


 まだまだ時間ある……あれ?

 そういえば今日、家庭教師の日じゃん。


「じゃあね無職のみんな。俺はこれからやることあるから」


 おそらく罵詈雑言の嵐であろうコメント欄を見ず、配信を落とした。

 

 ただの家庭教師が来るだけでこんな慌てて配信を切らない。

 俺はその家庭教師……奈々瀬ななせさんに片思いをしてる。部屋を片付けたり、部屋の匂いを確認したり、身だしなみをしっかり整えないと。


 もう数分で来るだろうから手遅れだけど……。


 お互い好きな配信者の話で盛り上がってるから、今日こそ奈々瀬さんのことも聞き出したいな。

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