EP.6 恋と毒

 中間試験を終え、部活再開と同時に笑華は戸惑いを隠せないでいた。今まであまり話をしなかったクラスメイトから声を掛けられたり、学園内でも同級生、先輩と様々な人に話し掛けられていた。そんな笑華の様子を見て心配していた桜葉は、

「笑華ちゃん、部活が終わった後、一緒に寮まで帰ろうか?」

「気を使わなくても大丈夫だよ。そんなに距離もないし。桜葉くんの寮と私の寮、少し離れているから遠回りになっちゃうから。」

「けど・・・。」

「本当に大丈夫だから。あっ、ほら、キャプテンが呼んでるよ。」

 笑華の事を心配していた桜葉であったが、笑華の言う通りにした方が良いだろうと思い、その場を離れた。その様子を見ていた如月はある決心をしていた。


 部活が終わり、帰り支度をしていた笑華に如月が声を掛けた。

「平良。」

「はい。」

「この後、少しいいか?」

「はい。・・・大丈夫です。」

 如月の誘いに少し戸惑っていた笑華であった。

 2人で並んで寮まで歩いている間、笑華は緊張していた。笑華と同様、如月もこれまでにもなく緊張していた。寮の入り口に着いた時、如月は笑華の方を振り向いた。

「平良。俺、お前の事が好きだ。」

「・・・・・!!今・・・・なんと?」

「平良笑華のことが好きだ。」

 突然の告白に動揺を隠せない笑華であったが、顔に熱を帯びていることに気付き、恥ずかしさのあまり俯いた。

「先輩、急にどうされたのですか?先輩が・・・私の事を好きだなんて・・・・。」

「お前は覚えてないかもしれないけど・・・、俺、去年の学校説明会の時、お前に会ったんだ。その時、お前に一目惚れした。」

「・・・・学校説明会・・・?」

「クラブ活動見学だっけ?陸上部の見学に来てたよな。あの時、平良に声を掛けられたんだよ。」

「そう言われてみると・・・・どなたかとお話をした気がします。」

「そんなに印象に残らなかったのか、俺。」

「で、ですが・・・、そのことがきっかけと言われても・・・・。」

「まっ、そうだよな。俺さ、学校説明会の時期、部活を辞めようか悩んでたんだ。大会で足を捻ってしばらく走れなかった時期だったのもあるけど、部活に魅力を感じなかった。けど、平良が他の部員の姿を見て、目をキラキラさせているのを見たら、俺もあんな風に見られたい、そう思うようになった。」

「私が楽しいですか?ってお聞きした方が・・・・先輩だったのですか?」

「そう。・・・覚えてない?」

「今と髪型が違ったので思い出せなかったです・・・。」

「この想いは俺の中に留めておこうと思ったけど、そんな悠長なこと言ってられなくなった。」

「えっ?」

「平良は気づいてないことかもしれないけど、中間試験の後から平良を狙う奴が増えたんだ。賢い、運動もできる、おまけに可愛いともなれば、欲しくなるだろ。俺もそのうちの一人だ。」

「先輩の気持ちは嬉しいのですが、私、どのような返事をすれば良いのかわからないです。そもそも、誰かとお付き合いしたこともありませんし・・・。」

「俺の事、好きか嫌いか、答えは2択。どっち?」

「・・・・先輩の事・・・・嫌い・・・・ではないです。」

「なら問題ない。今日から平良は俺の恋人。よろしく!!」

 こうして気持ちの整理がつかないまま如月とお付き合いをすることになった笑華。この日の夜はなかなか眠ることができないのであった。

 朝日が差し込む中、目を覚ました笑華。普段通りに身支度を行い部屋を出たと同時に、目の前に現れた如月の姿を見て昨晩の事を思い出した。

「おはよう。」

「おはようございます。」

「んじゃ行くか。んっ。」

 差し出された如月の手を見つめていると、

「恋人なんだから手を繋ぐだろ。」

 返事ができないままでいると、笑華の手を如月が掴み、そのまま指を絡めるようにして手を繋ぐかたちとなった。その様子を見ていた周りの生徒たちが騒いでいたが、そんなことはお構いなしに如月は笑華と手を繋ぎ歩いていた。


 教室に入った途端、瑠璃が詰め寄るように問いかけてきた。

「笑華~、ちゃんと説明してくれるよね?ねぇ。」

 昨晩の出来事を瑠璃に伝えると、

「笑華はそれでいいの?」

「うん。もともと憧れてはいたし・・・。」

「それ、初耳なんですけどー。」

 間を割って会話に入ってきた桜葉の表情はどこか寂しそうだった。

「桜葉くん。」

「憧れがいつしか恋になりました・・・かぁ。なんか複雑。如月先輩の事がイヤになったら俺のところに来ていいからね。笑華ちゃんなら大歓迎♪」

「えっと・・・・。」

「俺の彼女を口説くな。見苦しいぞ、桜葉。」

 そこには強張らせた表情の如月の姿があった。驚きのあまり、その場にいた全員が声を出せないでいると、表情を柔らかくした如月が言った。

「笑華、部活の事で話がある。ちょっとだけ一緒に来てくれないか?」

「わかりました。」

 如月の後ろを笑華が歩いていく姿をみた桜葉、瑠璃は同じように感じた。

≪これからが大変だな≫

 

 この言葉通り、学園生活において笑華は如月の一途で過剰とも言える愛を与えられ、彼の想いを身に知らされるのであった。

〈笑華は俺にとって最初で最後の恋人だ、誰にも渡さない、覚悟しておけよ〉




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋という名の毒 虎娘 @chikai-moonlight

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

同じコレクションの次の小説