EP4.視線の先

 学園での生活に慣れてきた頃、学生にとっては宿命というべきイベントが控えていた。その名も・・・中間試験。試験日の1週間前からはどの部活も一時休部となり、試験に備えての学習時間が設けられるようになっていた。出題範囲は予め決められており、日頃から勉学に励んでいれば問題なく通過できる内容だ。教科は英・国・数・社・理の5教科。合計点で学年上位30名が学内の掲示板に張り出されることになっていた。上位30名に入ることで順位に応じて学費免除等、優遇措置がとられる学内の決まりがあった。1学年約200名近くいる学園の上位30名に入ることは至難の業であり、もともと学力面で優秀な生徒が多いため更に難易度は上がっていた。

 その一方で、赤点といわれる65点以下となった場合、1週間の集中補習を受け、再試験で点数が取れなければ部活を退部しなければならない厳しい決まりもあった。


 チャイムがHRホームルームの終わりを告げ、昼食時間のために瑠璃と食堂へ移動している中、瑠璃が話しかけてきた。

「試験かぁ。この間学園の入試を終えたとこだよ・・・。私・・・理科苦手なんだよね・・・。内容についていけないと言うより、まず先生が無理!!」

「瑠璃、理科の金森かなもり先生苦手そうだもんね。」

「ボソボソ声に、どこ見てるかわからないあの目が無理。教える気あるのかな。」

「質問した内容にはちゃんと答えてくれるよ。教え方も私は気にならないし。」

「笑華は頭いいからそんな事が言えるんだよ。なんでもできるじゃん。」

「そんなことないよ・・・。」

 女子ならではの会話で盛り上がり、談笑しながらお盆を持ち、食堂内を歩いていると後ろから声がした。

「何の話をしてんの?」

 振り返るとそこには、一緒に食べようと寄ってきた桜葉と、瑠璃の幼馴染である山下楓やましたかえでが同じようにお盆を持ち、立っていた。

「今度のテストの話ー。あっ、あと笑華が賢くて羨ましい、って話。」

「テストか・・・。俺も本気で勉強しなきゃまずいな・・・。せめて赤点は回避・・・。その点、楓は余裕だよな。」

 ニカっと笑い、問いかけてきた桜葉に対し山下が答えた。

「余裕って何だよ。僕だってちゃんと勉強しないと点数取れないよ。」

「けどさ、瑠璃ちゃんや俺が苦手な理科は得意じゃん。理科研究部だっけ?楓の部活、確か理系・・・だよね。」

「部活と得意科目は一緒じゃないよ。似てるけど違うし。気になるなら蒼真も入部してみれば?」

「はぁあ!?俺には陸上というカッコいい部活がありますので遠慮しておきますーだ。っていうかさ、部活も今日から休みじゃん。来週の試験に向けて、放課後みんなで一緒に勉強会しない。いや、むしろして欲しい。ね、ねっ楓先生!!」

「その言い方イヤなんですけど・・・」

「えっ、じゃあ山下先生!!」

「ふざけてんの?」

 桜葉と山下の2人の会話を見て笑いながら空いている席に座り、食べ始めようとした時、笑華はふと前方から視線を感じた。

〈誰かに見られてる?〉

 思わず視線を感じた方向を見ると、そこには如月の姿があった。バッチリと視線が合い、互いに見つめ合う形となってしまい、そのまま視線をはずすことができずに固まっていると、隣に座った桜葉に声をかけられた。

「笑華ちゃん、固まってるけど、どうしたの・・・?」

 桜葉が笑華の視線の先を見た瞬間、表情を曇らせ小声で言った。

「・・・如月先輩っ!!・・・。」

「桜葉くん?」

 呼びかけに対し、桜葉は咄嗟に苦笑いをした。

「ほらほら、気にしないで食べよう。冷めちゃうよー。」

 この時、と桜葉と向かい合わせで座っていた瑠璃と山下は同じ考えをしていた。

恋敵ライバルロックオンだな≫

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