EP3. 目が離せない
戸塚学園はもともと親の出身校でもあり、担任だった教師にも勧められて通うことにした学園だ。入学当初より女子の間で言われるようになった『冷酷王子』。今では聞き慣れたが、何が冷酷王子だ。冷酷は認めても、どう見ても王子様キャラではない、と自分に言い聞かせたところで周りの反応が変わるわけでもないため、反応すること自体やめた。全寮制の学園で限られた敷地内のみでの生活、学外に出られる機会は部活の遠征か、長期休暇の里帰りのみ。暇を持て余すかと思いきや、学園での生活は、他校とは比べものにならないくらいの忙しさがあった。早朝ランニングから始まり、夕方までは授業、その後遅くまでは部活動・・・。
始めは体力的にしんどさを感じていたが、身体は自然にこの生活スタイルに慣れ、だんだんと苦ではなくなるようになっていた。根を上げる部員は数多といたが、俺は淡々と何事にも取り組んでいた。そんな俺の日常生活の中でたまにある発生するイベント、女子からの呼び出し。
「あの・・・前から如月くんの事・・・好きでした。」
「・・・・それはどーも。俺はよく知らない。じゃ、部活があるし。」
「・・・・・うぅ・・・。」
泣いている女子の慰め担当の友人が現れた。
「何よあの態度!!朱里がせっかく勇気を出して告白したのに!!」
一緒に来ていたであろう、友人の女子に背後で嫌味を言われている中、その場を去りながら俺は思った。
〈そもそも俺あんたの事知らねーし、何だよ、勝手に告白して泣くとか知らねーわ、これだから恋愛って面倒くせーんだよ〉
「きっと本気で誰かを好きになったことがないんだよ。」
〈本気で誰かを好きになんてなるって何だよ〉
心の中で文句を言いつつ、何事もなかったかのようにその場をあとにした。
度胸試しかのように習慣化していた女子からの告白は、この学園内でも有名な話となった。
そんなある日、戸塚学園の学校説明会が行われた。学校案内、寮生活の案内、部活紹介。この学園を目指している生徒からすると憧れとかあるのだろうか、何をもってこの学園に来たがるのだろうか、そんなことを考えながらグランドを走りこんでいると、ある女の子が目に入った。髪を頭の上で結び、今すぐにでも走り出しそうな前屈姿勢、表情豊かに目をキラキラと輝かせた彼女の視線の先には陸上部の部員たちがいた。
〈なんであいつから目を離せないでいる?〉
俺は思わず彼女に声をかけていた。
「陸上・・・・興味あるのか?」
声をかけられたことに驚いた彼女は頷くことしかできないでいた。しばらくの間黙っていたが、ふいに尋ねてきた。
「部活、楽しいですか?」
〈この学園の部活に楽しさを求めているのか?にしても、今まで楽しいかなんて考えたこともなかったな、おかしな奴・・・〉
真剣な眼差しの彼女を見て思わず笑いながら言った。
「楽しいよ!!」
その返事を聞いた彼女は同じように笑顔で答えた。
「ありがとうございます。」
夕焼けに照らされたその笑顔に俺は心を奪われた。
中学2年の春、新入生が入学した日、俺は心を奪われたその子を見つけた。
「・・・ジャマ。」
俺が放った言葉は彼女にではなく、その傍らにいた男子に言った・・・はずだった。視線の先には、何も言えないでいる彼女の姿があった。その目は、以前会ったときとは違い、怯えているようにも見えた。
〈なんでこんな事になった・・・?俺は親しげに話しをしている桜葉がジャマだったんだ。なのに・・・あいつにあんな事言うつもりはなかったのに・・・俺の印象最悪なんだろなぁ・・・ってか覚えてないのか・・・?〉
「はぁぁ。」
溜息をつきながら寮へと戻る足取りは、これまでにもなく重たかった。
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