第13話
「そのようなもので我と対峙するか、愚か者め!」
一方でオークキングは迎撃の態勢に移る。
足を前後に開き、腰を落とす。脇腹にぴったりとつけたまま両肘を後ろに引き、丹田に力を込めた。
これまででもっとも
当たれば即死、万が一外しても瀕死の重症を負うのは免れないたろう。
だが死地にこそ勝機は存在する。
ゆえにマストラはあえてそこに飛び込んだ。
刹那、彼を押しつぶすかの如く大きな二つの拳が突き出される。
「
雑草は根本から刈り取るのが
だからこそマストラは両拳を振り抜かれる寸前で大きく腰を落とし込んだ。
頭上すれすれをオークキングの拳が通過し、その風圧で彼の逆立った髪の毛を数本掠め取る。
それがオークキングの唯一の戦果であった。
なぜなら――……。
「は……?」
ごぶりと大量の血を吐く。
口からだけではない。
体の中心からもどくどくと赤い血が湯水のように流れていた。
嫌に腹がすーすーする。
当然だ、人間でいうところのへその上辺りから横にぱっくりと裂けているのだから。
ではなぜ腹部が裂けているのか?
もちろん切られたからに決まっている。
切られた? なにで?
まさかあのバスタードソードより切れ味の鈍そうな草刈り鎌で?
駄目だ、混乱している。理解が追いつかない。
ならば本人に問いただせばいい。
「ぼ、冒険者ッ、刃すらとおらぬ我の腹を裂くなど貴様ァ、どんな手品を使ったァ⁉」
「手品など用いずとも、草刈り鎌が雑草を前にして切れぬ道理はないだろう。……しかし、そうだな、ならばこれは鎌鼬と名付けよう。知らぬ間に擦過傷を負わせるという、東洋に伝わる魔物の名だ」
「ふ、ふざけるな冒険者ァ!」
力を入れた拍子で腹から更に鮮血が飛び出すことも構わず、オークキングはいつの間にかすれ違っていたマストラに向かって右手を振り回す。
けれども次の瞬間には鎌鼬によって手首の先から寸断され、宙を待っていた。
「ぎゃあぁぁぁあっ!」
途端、右手を失ったオークキングのくぐもった声が空間に響く。
我が身を襲う痛みにのたうち回り、空いている手で必死に欠損した箇所を抑えている。
だがそれも自分に歩み寄ってくるマストラの気配を感じ取るまでの間のみ。
痛苦に震える王のその口から次に発せられるのは恨み節か、それとも。
「た、助けてくれ、まだ死にたくない! 頼むから見逃してくれ、おれはこの洞窟でひっそりと平和に暮らしたいだけなんだ!」
まさかの命乞い。そこには傲岸不遜な態度を貫く王の姿はどこにもなかった。
情けなくも情に訴え、ただただ目に涙を浮かべて懇願する――芝居をうつ。
そうやって目の前の冒険者が罪悪感にかられ少しでも隙を見せた瞬間に、空いているこの左手で握りつぶしてくれる!
しかしオークキングの思惑が通じるわけもなく。
一欠片の付け入る隙も見せぬまま、告げられる。
「……言ったはずだ。その命を刈り取らせてもらうと。撤回はしない。なにより俺には目の前の雑草を見逃すような慈悲深さはない」
それはまさしく死刑宣告だった。
いつの世も王は死神の大鎌によって首を切り落とされる。むろん
「せめて安らかに草葉の陰で眠ってくれ」
そうして振りかざされた草刈り鎌によって戦いの決着はつき。
マストラ一行は誰一人として駆けることなく無事依頼を完了し、生還することができたのだった。
__________
次回で最終話となります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます