第12話
この世界では個人のありとあらゆる行動で
それこそ道端に生える、多くの冒険者にとっては取るに足らない雑草ですら一ポイントもの経験値が割り振られているのだ。
だからこそ荒れ地に雑草を茂らせてそれをむしるという、ただ無駄な自作自演に思える行為にも十分な理由がある。
畢竟どんな冒険者でも草むしりをしているだけで強くなることはできるが、もちろん途方もなく時間がかかることは間違いない。
それだったら危険を承知でモンスターと闘う方が手っ取り早く成長できる。
……本来であれば。
「俺の加護は
普通の冒険者がオークを十体ほど倒してようやくレベルが一つ上がるとしよう。
しかしマストラは一メートル四方の雑草をむしるだけでその成長率を軽々と超えることができる。
具体的には三もレベルが上がることだろう。
代わりに草むしり以外で得られる経験値に大幅なマイナス補正がかけられているが、そんなのはこのチートな成長率の前では微々たるもの。
パーティーを組むまで実戦経験が乏しかったにも関わらず彼がすこぶる強いのは、早い話がこの加護のおかげである。
たからこそオークキングに勝つためにはこうして草むしりを行う必要があった。
「……クルーエルの
黙々と草むしりに没頭していたマストラがやがて作業を終え、すっくと立ち上がる。
彼の手によって根本から抜かれた雑草はさっそく経験値へと変換され、その存在を消失させていた。
「最後の草刈りは任せろ」
やっと立ちこめる濃霧を振り切ったオークキングの姿をしかと見据え、愛用の草刈り鎌を軍手越しに握った。
錯覚だろうか、若手記者には彼の持つ草刈り用のちっぽけな鎌がまるで死神の持つ巨大な首切り鎌に見えた。
「我としたことがあのような小細工にしてやられたわ。だが二度同じ手はくらわぬ」
口ぶりこそ落ち着いているが、明らかに苛立っている様子が感じ取れる。
オークキングの想像ではとっくの昔に冒険者らを血祭りにあげていたはずだったのかもしれない。
「残念だが貴殿に二度目は訪れない。これから俺が倒すからだ」
そんな憤りに苛つくオークの王に対し、草刈り鎌の先端を向けたままマストラは淡々と告げる。
「ほざくな矮小な羽虫風情が! そのように法螺を吹く口ごと叩き潰してくれるわ!」
今度こそ分かりやすく激昂し、砲声のような咆哮を上げる。
新米の冒険者ならそれだけで腰を抜かしかねないが、マストラは真正面から受けとめた。
恐れる気持ちは一片としてない。
彼の目にはもはやオークキングの姿は伸び切った雑草にしか映っておらず、ただあのゆらめく雑草を刈りたいという欲求しか湧いてこない。
――音もなく、駆ける。
今やマストラは一陣の風だ。
途中で草刈り鎌を逆手に構え、雑草めがけて疾駆する。
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