第11話
「ちょいとお客さん困るんだよね、そっちは舞台裏なんで関係者以外立ち入り禁止だよ。そんなわけで大人しく観客席から鑑賞しててくんな!」
ポニーテールの少女が器用にも炎の息吹を操って行く手を阻む炎のレールを滑らせた。
本来であれば激しく燃え上がる火柱は生物の歩みを躊躇させるのに十分なほどだ。
しかし今のオークキングにおいてはこれぐらいの炎の壁ではなんら脅威になり得ない。
「理解が足りんのか? この程度の加護では我には通用せぬと先刻忠告したばかりだが」
「ええ、それはもうこれ以上なく自覚させられましたわ。ですが、なにも攻撃に転用するだけが加護の使い方ではないということをお教えいたしますわ」
ポニーテールの少女宛の発言を妙齢の女性が引き継いで返答する。
怪訝な表情を浮かべる相手をよそに、彼女は白い掌をオークキングの身の丈まで迫らんとする勢いで燃え上がっている炎の壁へと向けた。
水棲霊の加護を借りて水を生成すると同時、そのままそれを炎の壁へと伸ばしていく。
ただし、これまでと放たれる水の太さが異なっている。
遠距離から敵を貫くべく超圧縮していた水と違い今度は滝のような太さである。言うなれば水大砲といったところだろうか。
その水大砲が炎の壁と激突する。
なんのことはない、これではただの消化活動だ。
しかし決して的を外したというわけでもない。
これこそが彼女の、いや
「無様な悪あがきか――む、うぉ!」
凍てつくような水温の水により急速に冷やされた炎は、やがて急激な温度差からオークキングの周辺にのみ濃い霧を発生させる。
溶けるような闇に適応したオークキングといえどさすがに濃霧による視界不良は慣れようがない。
まるでつきまとうようにして生じているこの霧が晴れるのをじっと待つしかないのだが、その間にも事態は進んでいた。
「さ、お膳立ては済んだぜ、クルルっち」
「あとはマストラ様にお任せいたしますわ」
などと一仕事終えたとばかりに警戒を解く二人の視線の先には
緑の正体は地面に繁茂する雑草。
太陽の光が届かない洞窟内であるにも関わらず、青々とした雑草が根付いていたのだ。
幻覚や偽物の類ではなくれっきとした本物の雑草なのだが、先程まで決してあの辺りに自生していなかったはず。
なのになぜ存在しているのかいえば、答えは一つしかない。
「――わたしが得たのは
相変わらず地面に両手を突いたままのクルーエルは、唖然とした表情で目を剥く若手記者にそう説明をする。
「ざ、雑草を茂らせるだけ……?」
「はい。枯れにくく、生命力だけは強い雑草です。抜いてもすぐ生えてくる雑草です。そんな人の役に立つどころか邪魔にしかならない嫌われものの雑草はまるで自分と一緒だと思ってました。……あの時までは」
誰かが近づいてくる気配。
松明の明かりに暴かれて、徐々に輪郭をあらわにする。
その人物に語りかけるようにして、クルーエルは続ける。
「彼は産まれて初めて半獣人のわたしなんかを必要だと言ってくれたんです。だからわたしは彼のためだけに雑草を茂らせます。それしかできないけど、これだけはわたしにだって出来るから。だから胸を張ってこれが自分の役目だと誇れるんです。それもこれもマストラさん、貴方のおかげなんですよ?」
「……俺は、なにもしていない。むしろ俺の方こそ君にいつも助けてもらっている。今だってそうだ、いつも力強い雑草を提供してくれて感謝する」
前線からここまで後退してきたマストラの手にはいつの間にか腰ベルトに下げていたはずの真新しい軍手がはめられている。
その格好からこのあとなにが行われるのか想像をするに容易いが、それでも若手記者は彼に恐る恐る尋ねる。
「マストラさん、なにをするおつもりで…?」
決まっている、と彼は言う。
「――草むしりだ」
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