第08話

「す、すごい……!」


 その一連の光景をつぶさに眺めていた若手記者の口から、知らず感動の言葉がもれる。  

 話には聞いたことがあったが実際に目にするのはこれが初めてだった。

 彼女達が披露してみせたのは一見魔法のようにも思えるが、実際には少し違う。


 ――加護ギフトと呼ばれるこの天恵ちからは千差万別、一つとして同じ効果はないという。

 

 人間の叡智を極めた魔法が理論上誰でも再現可能な所業であるならば、人の身の限界を超えたこれはまさしく神の御業であるといえよう。


 ポニーテールの少女は火山蜥蜴サラマンドラの加護を、妙齢の女性は水棲霊アンダインの加護をそれぞれの肉体に宿しているらしい。


 魔術を唱えるよりも早く、弓矢を番えて離すより速い加護を用いた攻撃によってまたたく間にオークの手勢が全滅する。


 交戦前は理不尽なまであった彼我の物量差が逆転し、敵も残すところ変異種ただ一匹となっていた。

 

「――見事なり、冒険者の一団よ。よもやここまで早く追い詰められるとは思わなんだ」


 ここにきても変異種は余裕の態度を崩さない。

 強がりであるならばそれに越したことはないが、どうにも嫌な予感がしてならない。

 なにせ相手は同種の埒外にいる存在。通常個体と同じように考えるのは危険だ。


「だが貴様らの優位もここまでよ。存分に溜まった同胞はらからの恨み、我が晴らしてくれる」


 若手記者がふと変異種の背後に視線をくれると、今しがた全滅させられたばかりのオークが無表情を浮かべたままたゆたっていることに気がついた。

 一瞬新手かとも思ったが、どうやらそうではなさそうだ。

 なにせそのオークは皆一様に透けており、まるで生気を感じられない。

 たとえるならそう、霊体のような。


「我が獲得せし固有異能ユニークスキルは無下に散っていった同胞の怨みに応じて、手勢それを束ねし王の力に変換されるというものよ。――貴様らには聞こえるか? この怨嗟の声を。自らを殺めし者らを引き裂いて血肉を啜り、同じ地獄の苦しみを味あわせよと憤怒に満ち満ちた彼奴らの魂の叫びを!」


 それを示すかのように洞窟内にオークの鳴き声が反響する。

 幻聴なのか、はたまた実際に聞えているものかは若手記者には判別がつかない。

 分かるのは、変異種がとうとう動き始めたということ。

 無表情を貫いたまま恨めしげにこちらを見つめていたオーク達がいなくなっているということだけ。

 

「――名乗りが遅れたな。我はオーク共の王にして同胞の怒りを代行せし者、『オークキング』。我のために命を散らした同胞の手向けとすべく、まずは貴様らから嬲り殺しにしてくれよう!」


 害意を前にした生物の危機的本能からくるのか、若手記者は初めて殺気というものを感じ取る。

 空間内に充満していくプレッシャーに気圧されて思わず唾を飲み込んだ刹那、は飛んできた。



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