第05話
いくらか小休止を挟み、一行はだだっ広い洞窟を奥へ奥へと進んでいく。
既に何体ものオークを屠ってきたが、いまだ依頼達成には至らない。
依頼内容では最低でも三十体前後のオークの数が報告されていたが、これまでの掃討数を数える限りではまだまだ足りない。
「いい加減気が滅入ってきたね。誰かに出会うたび出会うたびオーク連中の素っ頓狂な豚面ばっかりで嫌んなるよ。あたいは豚が食べられないんだ」
「だけど他のモンスターに出くわさないのも不気味だよ。まるでなにかから一斉に逃げ出したみたい」
ポニーテールと半獣人の少女が会話を交わす。
思わず口を突いて出る愚痴とそれから一抹の不安を滲ませる言葉。
しかし半獣人の少女がそのような懸念を抱くのももっともである。本来洞窟には様々なモンスターが共存して然るべきだが、前述のオーク以外どうにもここに居着いているはずの別種を見かけない。
若手記者は手に持った松明を揺らし、ふと思索にふける。
オークが数に物をいわせて他種族のモンスターを洞窟の外に追い立てている可能性がなくもないが、そもそもの話オークは臆病な性格であるから不必要に他種族の怒りを買う行為に出るだろうか。
それこそ半獣人の少女が言うように、オーク以外のなにかから一斉に逃げ出したかのような――。
「……この先が洞窟の最奥のはずだ」
マストラの発した言葉で思索の海から現実に意識を戻す。
最奥というからには、恐らく残るすべてのオークがそこで待ち構えていることだろう。
直接戦闘に参加するわけではないが、マストラ達に迷惑をかけないよう気を引き締めておかなければならない。
ここにきて足を引っ張るなどもってのほかだ。
「まずは俺が行く。周囲に注意を払っていてくれ」
先頭に立つマストラが慎重に歩を刻む。
草の根一本生えていない洞窟の地面はコツコツとほどよく足音が響く。
松明の灯りもあいまって敵方にはとっくに
足を踏み入れた瞬間ズドン! という事態も想定しておくことこそが冒険者の世界で長生きする秘訣であると彼も十分に熟知していた。
けれども幸いなことに危惧していた事態が訪れるようなことはなく。
「…………」
やがて開けた場所に出た。
これまでも武器を満足に振るうことができる程度の広さはあったが、そこは特に大きな空間だった。
しかし開けているもののこれ以上は行き止まりのため、ひどく空気が淀んでいる。
むせかえるような耐えがたい異臭に、その場で顔をしかめる。
――これは、
マストラは暗闇を切り裂くようにして松明を前方に掲げると、予備に火を移してからそれをシュッと向こう側に投げつけた。
松明のゆらめく灯火に照らされて、不気味なほど肥大化したシルエット郡が壁際に照射される。
やはり現存するオーク共がこぞって集結しているようだ。
その中で一際巨大なシルエットがぶるりと踊り、
「――誰ぞ貴様ら? ここを我らがオークの根城と知っての狼藉か」
体の芯から底冷えするほど重く、威厳のある
それだけでこの場にいる人間全員が悟る。
こいつはただのオークじゃない。もっと強大で、驚異的で、危険な、そう、言うなれば――。
「
代表してマストラがぽつりとつぶやく。
最後の最後で想定外の不運が待ち構えていたとはまったくもってついてない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます