過去編~鈴木氷雨のヤンキー幼馴染み~第1話

 これは、甥のひさめ君と出会う前の物語。

 今から、数年くらい前の物語。


 あたしは、幼稚園受験のために必死に勉強する真面目な優等生だった。

 あたしが、これから入る幼稚園は難関の、学力が必要な幼稚園だったから。

 そして、重荷になる両親からの期待も大きかった。


 両親から、私立の幼稚園、小学校、中学校、高校、大学まで決められていて、すべては親のためだけに頑張っている、真面目だけが取り柄のあたしだった。


 髪は黒髪のショートヘアーで、髪を伸ばすことは許してもらえなかった。

 両親からの抑圧で壊れそうな時は、幼馴染だけが頼りだった。


 幼馴染は、近所に住んでいて、生まれた時から一緒に育ったあたしの親友。

 そして、あたしの初恋で、片思いをしている。

 その名は、佐藤君。


 幼稚園は別々になるみたいだけど、あたしはそれでも親友だと信じていた。


「佐藤君、一緒に遊ぼうよ」


「いいでござるよ」


 あたしは、佐藤君と会えることが毎日の楽しみだった。


 この時のあたしは、今みたいな「あたくし」でござる口調で話すことはない。

 一人称が「あたし」で、中性口調で話す、どこにでもいる普通の、何の変わったことがないような子供だったと思う。


 佐藤君は、なぜかいつも、鮫のフード付きパーカーを着ていた。

 当時のあたしとしては、それが不思議でしょうがなかった。


「そういえば、佐藤君は、どうしていつも、鮫のパーカーを着ているの?」


「かっこいいからでござるよ。


わたくしも、鮫みたく強くなれたらなーって思っているのでござる」


「ふうん、変なの」


 佐藤君は、ござる口調で、一人称は「わたくし」だった。

 理由は、なぜなのかはわからないけど、物心がついた時から、そんなかんじだった。


 そして、佐藤君は、髪を緑色に染めて、腰まで伸ばして二つの三つ編みにしていたものだから、あたしの両親はもちろん、近所の人からも不思議がられていた。


「何なの、あの子?


男なのに、髪を伸ばして、三つ編み?」


「しかも、何あの喋り方?」


「いつも、着ている鮫のパーカーには何の意味があるの?」


 近所の人たちからの、ひそひそ話がいつもたえなかった。


「佐藤君、いいの?


近所のおばさんから、こんなこと言われているよ」


「気にしないでござる。


風のように、痛くないでござるよ」


 この時、あたしは心の中で「佐藤君は、不思議な人だ」と思ってしまった。

 その日は、これで終わった。


 あたしは、親が指名された幼稚園に見事、合格した。

 こうして、あたしと佐藤君は、別の幼稚園に通うことになったけど、佐藤君は幼稚園の制服の上から鮫のパーカーを着ていた。

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