第20話 臨時講和
西暦2025(令和7)年3月27日 ヘレニジア連邦共和国北東部 アリクサンドル市
ヘレニジア
日本とヘレニジア連邦共和国の間に正規の国交関係はないものの、民間のレベルではトルキア人とヘレニジア人の間での交流が継続しており、民間人を仲介して使者を派遣するという通知が、アリクサンドルに駐留する陸上自衛隊第17師団に届けられたのである。
「アティナの最高評議会は、ラテニア連邦の強襲によって壊滅し、北西部地域は完全にラテニア軍に呑まれました。現在はスパルティアの臨時政府を中心に抵抗が続けられておりますが、はっきり申し上げまして、勝算は限りなく低いです」
アリクサンドル評議会議事堂の一室で、テサロネキア代表のペルタ評議長はそう言い、栗原は怪訝な表情を浮かべる。
「中央政府が瓦解した事は聞き及んでおります。ですが、それだけの理由で離反するのは却って怪しく見えるのですがね…」
「そうでもしなければ、ヘレニジア全体は間違いなく滅びてしまいます。我らヘレニジアの民が守らねばならないのは、200年以上続く共和制の誇り。都市国家一つでも生き残れば、システムも生き延びる事は出来ますが、ラテニアは共和制とは名ばかりの寡頭制国家です。間違いなく市民の多くは
「…ともかく、貴方がたはヘレニジア連邦共和国の滅亡した政府の代理として、我が国と講和がしたい…それでよろしいですね?」
「その通りです。いずれにせよ、ラテニアは灰燼と帰したアティナに傀儡政府を立てて、事実上の属領として支配し始めるでしょう。彼らは『自由国』の名で周辺の国・地域を解放・独立させていると主張しておりますが、実際には国の元首はラテニア政府より任命された執政官が務めており、真に独立した国とは呼べませんので」
斯くして、日本国政府はテサロネキアの都市国家評議会をヘレニジア連邦共和国の正統な後継政府と認め、講和条約を締結。アリクサンドル及びクレティアより自衛隊を撤収させた。この独断に対して他の都市国家は怒りを露わにしたものの、ラテニア連邦から攻められている現状では不満を述べる以上の行動は出来なかったのである。
レッドサン・ツインヘッドイーグル 広瀬妟子 @hm80
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