第18話 アティナの惨劇

西暦2025(令和7)年3月18日 ヘレニジア連邦共和国 首都アティナ


「ニホンは我が国に対し、何度も講和を打診してきております。以前アリクサンドル近郊の都市に散布してきたビラの内容を含めると、彼の国はアリクサンドル及びクレティアからの撤退の条件として、トルキア王家の身柄引き渡しを求めてきております」


 外務長官の報告を聞き、デミクレスは頭を抱える。日本との戦争が始まって1か月が経ち、ヘレニジア連邦共和国は窮地に追い込まれようとしていた。まずアリクサンドルが敵陸軍の侵攻を受けて陥落し、現地の守備を担う第12歩兵師団含む3個師団が壊滅。空軍も戦闘機40機以上を喪失しており、国内に大きな衝撃をもたらした。


 続いて南部のクレティアにも、ニホン軍が出現。第2艦隊を壊滅させ、クレティアの第13師団を壊滅させて占領したのである。これでヘレニジアは東と南から挟まれる形となり、さらに海上物流もニホン軍に対する懸念で滞り始め、経済に悪影響が出始めていた。


「何故だ…何故我が国はたかが新興国ごときに負けねばならぬのだ…!」


 デミクレスは血相を青くして叫び、他の閣僚も同様に表情を暗くする。死者はすでに20万近くに上っており、アティナ含む複数の都市では終戦を求めるデモ行進が行われている。政府に対する信頼は地に落ち始め、市場もトルキアから民間人を介して輸入出来ていた食料品などが手に入れられなくなった事で物価が高騰。国家として苦しみ悶える状況になり始めていた。


「と、ともかく、何としてでも奴らをアリクサンドルやクレティアから追い払え!我が国の誇りを汚した輩は絶対に―」


 と、デミクレスが高く声を張り上げたその時、サイレンが鳴り響く。それを耳にした多くの閣僚が戸惑いを露わにする。


「空襲警報か?だが連中はここまで届く爆撃機など持っていない筈―」


 本来鳴り響く筈のない警報に、デミクレスは訝しむ。がその時、窓一面を白い閃光が覆い、爆風と熱波が窓ガラスを叩き割ってデミクレスたちを押し倒した。


・・・


「恐ろしい事が起きましたね…」


 首相官邸の地下で、菅原は震える声で呟き、多くの閣僚が頷いて同意を露わにする。


「人工衛星による観測の結果、北西方向より飛来してきた大型機が通過した後、アティナにて大規模な爆発を確認。市街地に多大な損害が出た事から、統幕と致しましては、熱核兵器による戦略爆撃が行われたのだと推測されます」


「…誰の仕業ですか?」


「…恐らくは、ヘレニジアの北西に隣接する国家の仕業でしょう。彼の国は、ヘレニジアをもはや頼りに出来ぬ国として見捨てたのです」


 この1週間後、ラテニア連邦がヘレニジア連邦共和国に対し、『ニホンなる野蛮な国に寝返ろうとした』という理由で侵攻を開始した。

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