第16話 白日攻勢

西暦2025(令和7)年3月14日 トルキア自治区西部 国境地帯


 国境地帯を跨ぐ街道に、多数の装甲車両が集まる。陸上自衛隊第17師団の総戦力は、他の二つの街道に展開する第18・19師団とともに、これから敵地たるヘレニジア連邦共和国に攻め込み、彼の国の東の要所たる都市国家ポリス、アリクサンドルを占領しようとしていた。


 無論、恒久的な占領など考えてはいない。相手がこれ以上の戦争継続は無意味だと考え、講和条約にてトルキア王家の身柄を引き渡し、トルキア全域を日本の保護下に置く事を認めてくれれば、直ちに撤収する事となる。だが講和が結ばれるか否かの次第では、アリクサンドルの併合すら考慮しなければならなくなるだろう。


 だが、戦争終結のためには相手の軍隊に致命的なダメージを与え、プロパガンダや情報戦にて国民の戦意を落とし、物理的にも精神的にも継続は困難である様にしなければならない。そのために彼らはこれから敵地に足を踏み入れるのである。


「自衛隊統合幕僚監部発、『オペレーション・ホワイトデー』開封承認。各師団、ヘレニジア連邦共和国に対して前進せよ。航空自衛隊は敵野戦陣地に対して総攻撃を開始。進撃を阻害せんとするもの全てを撃破せよ」


 命令は下された。22式装甲車の指揮通信車型より、通信を受けた栗原は命令を発する。


「全部隊、前進開始せよ」


「前進、前へ!」


 ディーゼルエンジンが唸り、数十両の10式戦車を先頭に立てて街道を西に進み始める。15キロメートル先にはヘレニジア陸軍2個師団で形成された陣地があり、規模で言えば6倍もの開きがあった。だが、火力で言えば自衛隊の圧倒的優勢であった。


「て、敵軍が攻めてきました!」


「狼狽えるな!こちらは数で勝っているのだ、先頭の集団に集中砲火を―」


 第15歩兵師団に属する砲兵連隊長が攻撃命令を発しようとしたその時、上空を幾つもの轟音が響く。何事かと顔を上げたその瞬間、複数の塹壕にて火柱が聳え立った。


 その正体は航空自衛隊第10航空団に属する〈A-1〉軽攻撃機の爆撃であった。台湾より多量の半導体を安定して得られる様になった現在では、それを用いる誘導爆弾は大量生産されており、こうして最前線で何の気がねもなく用いる事が出来る様になっていた。


「敵は混乱状態にある、一気に畳みかけろ」


 戦車部隊は平野に広がる様に横に展開し、敵陣地へ接近。砲身の俯角を取ると、塹壕に直接砲弾を叩き込む様に砲撃。塹壕を吹き飛ばす。


 途中で数両のC48戦車やC51重戦車が現れ、10式戦車に砲撃してくるが、89ミリ砲弾や100ミリ砲弾は容易く装甲に弾かれ、お返しとばかりに放たれた120ミリ砲弾は敵戦車を一方的に撃破していったのである。


・・・


「陸はすでに反撃を再開している。我らも行くぞ」


 航空自衛隊第10航空団に属する〈F-15J〉20機は、アリクサンドル防空のために展開する敵戦闘機を排除し、制空権を掌握するために展開していた。


「戦線は崩された。反撃する暇を与えるな」


『了解!!!』


 20機はアフターバーナーを焚いて敵戦闘機に接近し、空対空ミサイルを発射。超音速の一撃で敵機を瞬殺し、〈B-1〉爆撃機の支援に徹する。そうして現状の敵機を排除した後、〈B-1〉が到達。飛行場に向けて爆弾の雨を降らした。

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