第15話 攻守交替

西暦2025(令和7)年3月3日 ヘレニジア連邦共和国 首都アティナ


「おのれ!!!」


 連邦最高評議会議事堂の会議室に、デミクレス最高評議長の怒号が響く。その原因はやはり、トルキア解放のための攻勢と、ケプロシア王国侵略の失敗であろう。


 新生トルキア陸軍を補助する立場にあった連邦陸軍第2軍は、ニホン軍の反撃を受けて大打撃を被っていた。例えばトルキア陸軍第1師団とともにケーソン奪還に赴いた第14歩兵師団と第21戦車師団は、重砲の集中砲火と敵戦車の機動包囲、そして航空機による対地攻撃を浴びてトルキア軍もろとも壊滅。残る3個歩兵師団も沿岸部に展開した敵艦隊からの砲撃や、大型爆撃機の強襲爆撃、そして機動力の高い旅団規模の部隊に蹴散らされていた。


 海と空も悲惨である。まず、ヘレニジア亜大陸南部海域を完全に制圧するために、ケプロシア王国に対して兵を進め、海軍第3艦隊を展開していたのだが、艦隊はニホン艦隊との交戦で全滅。上陸していた陸軍第11歩兵師団も降伏に追いやられた。そしてトルキア西部の制空権を巡る争いにて、空軍は戦闘機60機、爆撃機30機を喪失する大打撃を被っていた。


「国防長官!何か対策をしていないのか!?」


 デミクレスからの問いに対し、テリウスは顔を青ざめながら説明を始める。


「はっ…現在、陸軍は各軍より、1個師団ずつ戦力を抽出し、東部方面に集中展開。敵軍の侵攻に対して万全の状態で迎え撃つ予定となっております」


「空軍も同様に、南部方面師団の2個戦闘機大隊を東に回し、防空に徹します。そして敵航空戦力が枯渇し始めた隙を狙い、爆撃機大隊で反撃に移る予定です」


「何としてでも蛮族どもを我がヘレニジアに踏み入れさせるな!必ずや勝て!」


・・・


日本国東京都 首相官邸


「これより、反攻作戦計画の概要について説明いたします」


 官邸地下の危機管理センターにて、統合幕僚長は菅原たちに対して、説明を始める。


「まず、ヘレニジア連邦共和国の領土に対する侵攻作戦ですが、目標は共和国最東端の都市国家ポリスであるアリクサンドルです。ここには陸軍第2軍司令部や空軍基地、そして海軍基地などのトルキア王国に対する防衛拠点が集中しております。ここを攻略して一時的に占領下に置く事で、ケーサン市の防衛線再構築の余裕を確保し、講和後に相手が約束を破ったとしても、確実に反撃出来る様にします」


 ケーサン含む西部地域では、ヘレニジア陸軍や新生トルキア陸軍の強引な現地調達や、自衛隊に対する敗退によって亡命政権に対する現地住民の信頼度の低下が起きており、日本に協力しようとする者が増えているという。


「そして陸上での攻勢では、第17・18・19師団と第10航空団の動員可能戦力によってアリクサンドルを占領し、戦線を押し込みます。海上での攻勢ですが、ケプロシア王国に最も近いクレティア島に対し、水陸機動団及び第一空挺団を主体とした強襲部隊を展開。同時に海上自衛隊護衛艦隊によって現地の海上戦力を殲滅します」


 敵艦隊などミサイルで十分に完封出来るだろうが、今回のケースでは彼らの常識と価値観の範囲内で勝敗を決する事が戦略的に重要だと考えていた。そのため主力艦をミサイルで仕留めた後、艦砲射撃で駄目押しを行う方針であった。


「ここは我らにとって正念場です。確実に勝ちに行きましょう」

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