第5話 トルキア王国の最期

西暦2020(令和2)年8月8日 トルキア王国西部 ケーサン市


 異常事態より7か月を迎えたこの日、陸上自衛隊はトルキア王国西部、イスタビアより西に500キロメートルの地点にある城塞都市ケーサンを包囲していた。


 トルル平原での会戦から4か月近くが経ち、自衛隊は陸上戦力を5個師団2個旅団の規模にまで増強し、複数の大隊規模の戦闘団を編成して各所を制圧。この頃には圧政の象徴であった王国軍が目に見える様に弱体化していった事や、それを受けて農民たちが貴族領主に反乱を起こす様になった事で、自衛隊のトルキア軍排除と現地制圧はスムーズに行われる様になり、こうして王国軍首脳部が立て籠もっていると思われるケーサンにまで到達したのである。


 王国の元首たる王家も、同様にケーサンに籠城している可能性が高く、今回の包囲戦には外務省から出向してきた外交官も参加していた。捕縛後の講和会議にて時間的ロスを減らすためである。


 本州配備部隊で生き残っていた74式戦車や、それと同時期に開発された装甲車両である73式装甲車、そして西部方面戦車隊に属する10式戦車の集団が取り囲む中、野戦司令部では田代ら陸上自衛隊上層部が話し合っていた。


「相手は降伏を拒否し、徹底抗戦の構えを見せている。我らも燃料と弾薬が永久にあるわけではない、さっさと片を付けるぞ」


「一応敵は、射程10キロはある重カノン砲を配置している模様です。また戦車らしき車両も確認されていますし、特科と戦車部隊で念入りに撃破してから普通科部隊を突撃させるべきだと思います。装甲車もイスタビアの臨時工場で遠隔操作式の機関砲を増設しましたので、攻撃力が不足する事はないと思われます」


「そうだな…つくづくライトタイガー89式装甲戦闘車が多く用意できなかったのが悔やまれるよ。ともかく、今ある戦力でどうにかするしかないだろう」


・・・


 斯くして、第4師団と第6師団、西部方面隊隷下部隊で構成された包囲網は距離を狭め、攻略戦を開始したのだが、やはりと言うべきか、苦戦の様相を呈した。


 最初に特科部隊の榴弾砲で粗方の砲兵陣地を破壊し、その直後に戦車部隊を前進。応戦のために発砲してきた生き残りに対して120ミリ多目的榴弾を放り込んで沈黙させる。そうして沈黙を確認してから、リモコン操作式の20ミリ機関砲を装備した73式装甲車を前進させて普通科部隊を送り込んだのだが、そこに潰したはずの重カノン砲や野砲の砲撃が飛んできた。


 後に捕虜や投降者からの聴取で判明した事であるが、王国軍は重要な砲兵陣地に魔導師を配置し、高レベルの障壁魔法や土操作魔法でトーチカを形成。155ミリ砲弾に耐え、敵戦車の前進に惑わされる事無く辛抱した者だけが生き残り、反撃を見舞ったのである。


 さらに水操作魔法と土操作魔法によって人工的に作り出された泥地は、重量44トンと主力戦車としては軽量な10式戦車でさえも進出を躊躇わせる程の悪路と化していた。流石に窮地に追い込まれ過ぎて、手段を択ばなくなってきた辺り、トルキア王国の限界が見えてくるというものであったが、この状況ではむしろ厄介であった。


「相手も頭を働かせてきたな…侮りがたし」


「ですが、これ以上手をこまねいている訳にもいきません。ヘリボーンで一気に押し込み、空から抑えましょう」


 新たな作戦が決められた。本州より引っ張ってきた対戦車ヘリコプターを含むヘリコプター部隊を投入し、空から攻める。それに対して、城壁各地に展開された高射砲や機関砲が対空砲火を張り始めるも、そこにAH-64D〈アパッチ・ロングボウ〉が30ミリ機関砲と多連装ロケット砲を投射。城壁もろとも破壊した箇所にUH-1J〈イロコイ〉とUH-60J〈ブラックホーク〉からなる降下部隊が展開。ホイストを使って降下していく。


 斯くして、ケーサン包囲戦は僅か3時間で幕を閉じた。攻略自体には成功したものの、肝心の捕縛対象である王家は逃亡に成功しており、自衛隊も敵カノン砲や野砲の不意打ちもあって7両が走行不能、11両が中破、隊員18名が死亡するという過去最大の損害を被る結果となったのである。

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