第3話 防衛会議

西暦2020(令和2)年3月15日 日本国東京都


「では、これより会議を始めさせて頂きます」


 『転移』と命名された異常事態から凡そ2か月が経ったその日、防衛省では会議が執り行われていた。議題は今後の防衛力整備計画についての議論であった。


 何せ、仮想敵が大量の核兵器と弾道ミサイルを持つ社会主義国家から、時代遅れながらも数では十分な規模を持つ近世レベルの専制主義国家へと変わったのである。当然、戦い方とそれに適合した装備も見直さなければならなかった。


「先のトルキア王国における戦闘では、彼の国の歪な軍事力が明らかとなりました。まず海上戦力は帆走ないし小型船舶用ディーゼルエンジンを用いる装甲艦及び戦列艦であり、航空戦力は『ワイバーン』と呼称される生物兵器を用いていました。ですが陸上戦力においては、大多数はマスケット銃と前装式のカノン砲でしたが、精鋭の扱いを受けていた部隊は、ボルトアクション式ライフル銃や後装式カノン砲を保有しており、移動手段に自動車を用いておりました。捕虜からの聴取では、西の国より高値で買ったものであるとの事です」


「つまり、相手は西側の…兵器の供給元であろう国に逃げ込んだ可能性がある、という事か…」


 陸上幕僚長の呟きに、進行役の事務次官は頷く。


「そして我ら自衛隊の今後の防衛計画ですが、今後は外国も戦場となるため、陸上自衛隊の部隊規模は拡大される予定となります。具体的に言えば、新たに陸上自衛隊3個師団を編制し、トルキア王国に配備する予定です」


 事務次官曰く、現状の陸上自衛隊の火力であれば、敵兵が数万で攻めてきても1個連隊で返り討ちに出来るというが、守備範囲は北海道と同等の面積であるため、相当な規模が必要になると見られていた。今のところ、現地住民の多くは高等弁務官の下での平等な扱いと、犯罪に対する徹底的な対処、そして百年以上先の技術力による豊かな暮らしによって友好的な態度を取っているものの、トルキア王国の混乱を察知した武装集団が侵攻の動きを見せていた。


「しかもこれは、守備のみを念頭に置いての数値です。これからは積極的防衛による大規模攻勢も必要となりましょう。よって予備兵力を含めると、6個師団が必要になります。それだけ厄介な敵を目の当たりにしたという事です」


 事務次官はそう述べた上で、今後の自衛隊が求める整備計画について話し始めた。それは以下の通りである。


・新型装軌式装甲車両の開発と生産

 トルキア王国のあったバルカニア亜大陸は、未舗装の道路及び平原が多く、装輪式装甲車両では作戦行動が困難であると見込まれていた。そのため新たに73式装甲車の後継となる装軌式装甲車両を複数種開発・生産する。

・新型多用途ヘリコプターの開発・調達

 先のイスタビア攻略戦において、ヘリコプターを用いた大規模空挺作戦が行われたため、〈UH-60J〉の後継として、富士重工業で開発中である〈UH-X〉よりも高性能な多用途ヘリコプターを開発・調達する。なお〈UH-X〉は本土の〈UH-1J〉更新のために開発・生産を継続する。

・火砲装備の充実

 バルカニア大陸における戦闘では、誘導兵器よりも従来の火砲を用いた戦闘が主軸となると予想されるため、6個師団の増派に合わせて迫撃砲・りゅう弾砲を増産する。

・新型護衛艦の開発と建造

 バルカニア大陸に1個護衛隊群を置くにあたり、新型の護衛艦を開発・建造する。


「そして人員ですが、防衛大の定員を増やし、各地の駐屯地にある教導部隊を動員して数を確保します。何せ前代未聞の異常事態ですからね、失業者は国家公務員に食い扶持を求めてくる可能性が高いです」


「自衛隊の質は低下を免れんが、今は非常時だ。まだこの世界の実情を知らぬ以上、常に我が国と同格ないし格上の存在がいる可能性を考慮しながら、防衛力の整備を進めねばなるまい」


 防衛大臣はそう言って一先ずの結論を下したのだった。


・・・

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