第38話 到底言い表せない
【まえがき】
あとがきにて、告知があります。
◇◇◇ ◇◇◇
羽成哲太――。
俺の小学生時代からの友人。小学二年生からの付き合いだ。
リアルで最後に会ったのはおよそ一ヵ月前。ネットで遭遇したのはつい最近のことだ。あの時の蕎麦の動揺っぷり……思い出すだけで笑えてくる。
いつか会ってみたいとも言っていたな。あの人見知りの柏木さんが自分から誰かに会いたいと言ったのは初めてだ。あれ、丁度いいのか、これは。
〈Kasumi:突然だけど、明日予定あるか?〉
〈羽成哲太:明日はオフだぞ〉
〈羽成哲太:どうかしたのか?〉
〈Kasumi:遊園地のチケットが二つ余ってな〉
〈羽成哲太:行くぞ俺は!〉
「よかったら行くか――って、早っ」
俺が打ち終わる前に。そんなメッセージが届く。
〈Kasumi:そうか〉
〈Kasumi:チケットは二枚あるから、誰かひとり誘ってもいいぞ〉
〈Kasumi:俺の連れが少々人見知りをするかもしれないけど〉
〈羽成哲太:一人か〉
〈羽成哲太:分かった 考えとくな!〉
「おう」
そう打ち込んで、送信。
羽成のことだから、ラグビー部の誰かでも連れてくるんだろうか。羽成みたいなのが二人居ると疲れるが……まあ、賑やかな方がいい。柏木さんの人見知りも改善するかもしれないしな。余計なお世話かもだが。
スマホの電源を落とし。ふと時計を見る。六時半だ。
「もうこんな時間か」
今日は柏木さんに、ゲームに誘われなかった。恐らく今頃は、山崎が柏木さんの家に行っているところだろう。嬉しい反面、寂しくもある。
今まではこの時間帯になると「カスミ、あそぼ!」と無邪気なDMを送って来ていたのだ。それがはたっと止むと、少しばかり寂しさもある。
……いやいや。
たかが一日一緒に遊ばなかったくらいでそんなことを考えるのはおかしいだろ。きっと、先ほどから少しずつ迫りくる空腹のせいで気がどうにかなっているのだ。
「さて、飯でも食うか……」
そう呟いてキッチンに行き。キャビネットを開く。
取り出したのは「濃厚ココナッツミルク風海鮮ラーメン」。この前一哲に勧められて半信半疑で試してみたが、これがなんとも美味しいのだ。
ピーッ ピーッ
「あー、今行く」
その前に乾燥機から洗濯物を……。一人暮らしってのは、本当に大変だ……。
◆◇◆
ピリリリリ ピリリリリ
「んっ……っぐ」
スマホを手探りで取り、アラームを止める。時刻は朝の七時半。予定通りだ。と、時刻の下に大量のバナーが表示されているのに気が付く。
「ん……何だこれ」
羽成からLANEの通知が来ている。
「家に来てくれ……?」
通知が二十件ほど来ている。
〈羽成哲太:カスミ〉
〈羽成哲太:弟を連れて行こうと思ったんだが〉
〈羽成哲太:あ、その前に時間は大丈夫か?〉
〈羽成哲太:部屋から出てこなくてな〉
要領の得ないものがほとんどだが。要約すると。
どうやら羽成は、弟の一哲を誘ったようだ。それを両親に相談したところ、猛プッシュ。本人の意見お構いなしに、家から引きずり出してくれと言われたそうで。何でも一哲は学校に長いこと行っておらず、最近は部屋からも出てきていないとのこと。
これはいけないと思った両親&姉弟が、どうにか日光のもとに引きずり出せないか画策しているらしい。
「なるほどな……」
ううむ、どうしようか。俺が行って直に話をすれば、何とか話だけでも聞いてくれるだろうか。この前会った時は普通だったしな……。
分からない。取り敢えず、柏木さんに相談してみよう。
通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『ん。どうしたの、カスミ』
ことの経緯を伝える。
『うーん……私が行ってどうにかなるとは思えないしなぁ。まあ、行くだけ行ってみよっか。その、羽成君って人も来て欲しいって言ってるしさ。今から準備するね』
「悪いな」
この際、サプライズということで。柏木さんには、今から向かう家が「アスガルド」の実家だということは伝えていない。ふふふ、反応が楽しみだ。
◆◇◆
「ここが……羽成家だ」
平屋建ての和モダンの家。間口は広く奥にも長い。羽成一家は五人家族+ペット一匹だから、住むには申し分ない広さだ。小学生時代は、ここに幾度となく遊びに来た覚えがある。夏休みには3BSを持って、縁側で遊んだっけな……。
懐かしさを感じつつも、インターフォンを押す。
『あら……あらぁ~佳純君じゃないの! 久しぶりねぇ。ええと、その横は……。ガールフレンド?』
「いえ、そういう訳ではなく」
『取り敢えず上がりなさいな。私、今手が離せなくて。ドアから入ってちょうだい』
羽成母、
「すみません。お邪魔します。行くぞ、柏木さん」
「あぁ、うん……」
柏木さんはそわそわしている。手に持ったポーチがしきりに揺れる。
「どうかしたのか?」
「い、いや。えと……。カスミの友達のおうちであって、私の友達じゃないから……私が入るのはお門違いかなぁと」
「別に構わないだろ。そういうことは気にしない奴だ」
「そ、そうなの?」
きょとんとした顔になる柏木さん。
「しょ、初対面でも気まずくなったりしない?」
「しないな。あいつはコロコロ感情が変わって忙しい奴だからな」
「そ、そうなんだ」
「ああ。気にするな」
玄関のドアを引き、開ける。ちなみに、羽成家の玄関ドアは引き戸になっている。
「お邪魔しま――」
「佳純君じゃないか!」
玄関に上がった瞬間、そんな声が聞こえる。上がり
「えと……
羽成哲実。羽成家三姉弟の長女だ。俺とはかれこれ知り合って八年になる。幼い頃からの付き合いというのもあり、敬語などは使っていない。
「そうだよ。いやぁ~、久しぶりだね、本当に! って、横に居るのは……」
「ああ。友達を連れて来てるんだ。名前は柏木さ――――」
俺が言い終わる前に。
哲実さんが口を開き。しゅぱぱぱっと柏木さんのそばまで寄る。
「――――な、なにこの子! か、可愛い……!」
「へっ?」
哲実さんは柏木さんの手を取る。
「眉目秀麗という言葉では到底言い表せない、この顔面の造形美! こちらをまるでゴミステーションに捨てられたバナナの皮でも見るような冷酷極まりない目つきに、背筋をピンと伸ばした、高嶺の花らしい気品漂う出で立ち! これはまさしく、ルビアの雰囲気そのままだよ!」
そう早口でまくしたてる哲実さん。怖い。気迫というか、雰囲気が。
「私は今ね、異世界恋愛ものの長編を描いているのだよ! その悪役令嬢として銀髪碧眼の子を採用しようとしたのだが……うん。これは絶対、マゼンタの方が良い! この佇まい、今すぐスケッチしようじゃないか! ふむ、ふむふむふむ……」
哲実さんはどこからかスケッチブックを取り出し。柏木さんを凝視しながら――同じくどこからか取り出した鉛筆を高速で動かし始める。
「え、えと……」
「――――はっ」
そこで我に返った様子の哲実さん。少しばかり、柏木さんから距離を取る。
「ゴホンッ……失礼。自己紹介がまだだったね。私は羽成哲実。哲太と一哲の姉だ。職業は漫画家兼イラストレーター。仕事柄、いや、職業病というべきか。たまに発作が起きるんだ」
「そ、そうなんですか。ええと、私は柏木葵と申します。よろしくお願いします」
「ほう? 葵さんと言うのだね。マゼンタに葵とは、これもまた良いじゃないか」
またもや柏木さんを凝視する哲実さんに、俺は慌てて軌道修正を図る。
「えーと、哲実さん? 哲太と一哲はどこに?」
「ああ。すまない。完っ全に佳純君の存在を忘れていた。私としたことが」
哲実さんは頭を掻く。
「酷過ぎる……」
「哲太はリビング、一哲は部屋に籠っているよ――――今日は遊園地に行くのだろう? 哲太と私は何度か行ったことがあるが、一哲が大きくなってからは色々と忙しくなってね……あの子にとっては、これが初めてのチャンスなんだ。君達さえ良ければだが、一哲も連れて行ってやって欲しい」
「まあ、そのつもりだけど……」
「おっと、いけない。玄関先で長話をするのも客人への無礼だね。上がるといい。ああ、そうだ。柏木ちゃん……で良かったかな?」
「あ、はい」
「犬は平気かい?」
「え、えと。少し苦手……です」
「じゃあ一哲の部屋には近づかない方がいい。門番が居るからね」
「そうなん、ですか」
「小哲という名前の柴犬が居るのだよ。ま、そこまで気にすることはないがね。哲太が何とかしてくれるだろう。あ、それと……柏木ちゃんも、実家のようにくつろいでくれて構わないからね。何たって佳純君のお友達だ」
「あ、はい。お、おじゃま、します」
「お邪魔します」
俺と柏木さんは、リビングまで向かった。
◇◇◇ ◇◇◇
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【あとがき】
哲実さん、めちゃくちゃいいキャラだなって思うんですよね……。今後も登場させたいです。いえ、登場させる気ではあるんですが(笑)
そして。
この段階で、第二章のタイトルを載せておきます。
「男だと思っていた五年来の付き合いのネッ友とオフ会したら、隣のクラスの「棘姫」だった 第二章 【
第一章は六十話あたりで一区切り付けたいと考えています。
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