第36話 こんな気持ちだったのかな
【はじめに】
碧獣回はひとまずこれで終わりです。次幕は【棘姫と遊園地】ですね。
―― ――
『ふぅー……なんかどっと疲れたよ』
『まさかゲームでここまでハラハラする日が来るとは思ってなかったぜ』
酒場でそうボヤくのは、山崎と辺。
「ま、初めてにしては上手く行ってたんじゃないか?」
『そうだよ。千乃ちゃんも辺君も、ちゃんと戦闘は出来てたしね。まあ、色々問題はあったけど……』
「初心者にしては、な。山崎なんか、常時爪出して威嚇してたし。あれ、
ぐいっと、樽ジョッキのビールを呷る。
そう。俺達は先ほどまで、ダンジョンに潜っていた。始めたての二人が居るので、初心者向けのあまり難易度の高くないものだが。
『え、そうなの!?』
『確かに千乃の奴、一人だけいつも息切れしてた記憶があるぜ』
『あはは、初心者あるあるだね……』
辺と山崎が初戦闘であたふたしていたのが印象深い。
◆◇◆
『れ、れーくんっ!! こいつら、どうやって倒そう!?』
『お、落ち着け、千乃! 大丈夫だぜ、少しずつ俺の方に帰ってこ――』
『れーくん後ろ!!』
『うわっ!? なんだお前ら!! このっこのっ』
山崎千乃は「フーッ!!」と猫耳を立てながら威嚇。辺は短剣を振り回している。
当然、当てずっぽうの攻撃が当たる訳もなく。気が動転している二人に、容赦なく攻撃する小さな蜘蛛の大群。
「はぁ……落ち着け、二人とも。こいつらはタラント・バグ。地底生物属性と多足属性だ。属性的に短剣のよりも山崎の
『千乃ちゃん、頑張って!』
俺と一緒に遠巻きに見ていた蕎麦が、腰に手を当てて「グッ!」と親指を立てる。
『そ、そんなこと言われてもっ! ああ、なんか病気になっちゃった!』
『なっ……! くそ、よくも千乃を! 許せんぜ、お前ら!!』
雑魚敵相手にあたふたする二人を眺める。HPはチマチマと減っているが、あの程度なら俺達が助けに行く必要もない。
『なんかさ。昔の私達を見てるみたいだね、これ』
「確かにな。あの時は別のゲームだったけど」
『私達と一緒に迷宮探索してたギルマスも、こんな気持ちだったのかな……』
「はは、何となく分かる気がする」
別のゲーム、とは。俺達が知り合ったオンラインゲーム「アルケイ・ホライズン」のことだ。今でこそ「クソゲー」の烙印を押されている作品だが、小学生だった当時はどっぷり浸かっていた記憶がある。
『懐かしいな、アルホラ』
「だいぶ前にサ終したもんな。まあ、それがオンラインゲームの常なんだけど」
公園で遊ぶ子供達をベンチで微笑みながら眺める老夫婦のような会話だ――って、何考えてるんだ、俺は。ぷるぷると頭を振る。
『ふぅ、ふぅ……よし。ぜんぶ倒せたよ、ゆっきー! あおりん!』
『ま、俺達の手にかかればこんなもんだぜ……』
山崎の
「お。意外と早かったな――って……」
『ふ、二人とも! 後ろ!』
背後に迫る、四対八本足の大きな影。
「ああ、悪い。言い忘れてた」
【ブシャアァァアァァアァアッ!!】
『『へ?』』
「このダンジョン、雑魚を全部倒したらそのままボス戦なんだった」
『さ、先に言ってよぉぉぉ!!』
辺と山崎の後ろに居たのは――――黒光りする体に、紅色の斑点。二つの上顎をガチンガチンと鳴らしながら、ゆっくりと近づく巨体。ダンジョンボス「キングタラント・ローラー」だった。
『に、逃げるぜ、千乃!!』
全力ダッシュで一目散に逃げる、RenKon777とchikochiko_land1212。まだそんな
「行くぞ、蕎麦」
『うん』
大剣を両手で持ち、走り出す蕎麦。その横を、俺も並走する。目の前のローラーの後ろ姿で分からなかったが、追い回されているのは山崎の方だったようだ。
『ひぃぃぃぃぃ――って。あ、あおりん!?』
蕎麦は山崎の横まで近づき――。大剣を構えて立ち止まる。ローラーもそれに合わせて、蕎麦の方に向き直った。
『大丈夫、千乃ちゃん。私達がやるよ』
「
俺は大盾を構え。技を発動した――――。
◆◇◆
『そこからは凄かったよね、二人とも。アウンの呼吸って言うのかな』
『ローラーの攻撃を冬城が防ぎつつ、柏木さんが前線で攻撃するってのがな。二人とも、手慣れてる感じがしてかっこよかったぜ』
『え、えへへ。そ、そうかな?』
あからさまに嬉しそうな声を上げる蕎麦。
『俺達なら「グラコニア」ってのも攻略できそうかもな。今は無理かもだが』
『そうだよ。これからもっと強くなったら、きっと出来るよ。あおりんの「ギルドを作りたい」ってのも叶えてあげたいしね』
ウンウンと頷く山崎。蕎麦は感涙に咽んでいるようだった。
『ふ、二人とも……うぅ』
「まあでも、ここからは四人パーティでもきつくなってくるからな。俺達の中にはヒーラーは居ないわけだし。知り合いとかにアテがあったら教えてくれ」
『おう。探しとくぜ』
『任せてよ! ごきゅっごきゅっ……――ぷはっ。おやっさん、もう一杯!』
――その時。
ガタンッ
酒場にぞろぞろと入って来る、パーティと思われるプレイヤー達。
『ん。何だ、あれ』
『うっ。ゴツい連中だな……』
その先頭であくびをしているのは。
『ふわァ……』
昨日グラコニアで遭遇した、あの
「あっ。あいつは――」
『え、嘘だ。あれって』
俺に被さるように、蕎麦が声を上げる。
「ん。どうかしたのか、蕎麦」
『ア、ア――』
椅子からガタリと立ち上がる蕎麦。
『――――アイアンメイデンだ』
『んお。あれがそうなのか?』
『ほへぇ。なんか強そうだねぇ……』
「……マジか」
俺は椅子を立つ。
「蕎麦。あそこだ。先頭に居るあいつが、昨日俺達を助けてくれたんだ」
『えぇ!? そうだったの!?』
「声がデカいぞ……。よし、昨日の礼を言いに行こう」
『そ、そうだね。気が付いてるのにスルーするのは良くないからね』
俺達は一番先頭に居る
「あの」
『んあァ? んだァ、お前ら……って、昨日の』
「その節は本当に助かった。ありがとう」
ペコリと頭を下げる。隣にいる蕎麦も、頭を下げている。
〈Sob_A221 :ありがとう。〉
『な……。やめろ、そういうのは。た、助けたつもりなんて、ねーからなっ』
あれ? なんか思ってた反応と違う。
「何勘違いしてんだァ? 俺様はお前らを助けたつもりなんてねーよ。そこどけッ」
みたいなことを言われるんじゃないかと思ってたのに。
「礼がしたい。ロイさんに一杯――」
『ロイ……?』
「ああ。ロイさん、だろ?」
『……』
わなわなと肩を震わす、
「ど、どうし――」
直後。
『俺様はロキ! アイアンメイデン筆頭、アスガルド部隊の二番手だ。二度と間違えるんじゃねェぞこのヤロウッ!!』
ロイ――ではなく「ロキ」は、親指で自分を指差して凄い剣幕でまくしたてる。
「ろ、ロキ……?」
『そォだッ!』
ネームタグを見る。「Loki_0612」……。どうやら、「ロイ」ではなく「ロキ」だったようだ。その横に居る二人は気まずそうにしている。
『おいロキ。落ち着けよ。何もそこまで言うこたないだろ』
後ろからそう宥めるのは、白銀の装備を纏った
そいつが出てきた途端、蕎麦の様子がおかしくなる。ぷるぷると肩が震えている。
『あ、あ、アスガルドだ……!』
蕎麦に言われるがまま見ると、確かに先日生配信のアーカイブで見たアスガルドと同じ容姿をしている。背中に携えた強そうな大剣も、あの配信のままだ。
「ん。あ、本当だ」
『わりいな。二人とも。うちのロキが』
『い、いえ! お構いなく!』
ピシッと背筋を伸ばして、アスガルドに向かって元気よく返事をする蕎麦。
『ええと、名前は……』
『わ、私! 蕎麦と言います……! わぁ、生アスガルドだぁ……』
正確には全く生では無いのだが。
『ふむ、蕎麦さんか。んで、こっちは……』
「俺はカスミだ。まさかこんなところであのアスガ――」
『んん? カスミ……? それに、俺……?』
「ん。どうかしたのか?」
両肩に手を置かれる。
「ちょっと。何を」
『おまっ……。まさか、あのカスミか?』
「どのカスミだ――って、お前」
「まさか、羽成か……?」
『おうよ! 俺だよ! 羽成哲太だよ! うわぁー、奇遇だな、カスミ!』
羽成哲太。俺の小学生時代からの友達……。
「こんなところで……ってか、アスガルドってお前だったのか……」
確かにあいつ、古参勢だって言ってたもんな……。とは言っても、流石に「
『へへ。ここで会ったのも何かの縁だ。フレンドなってこうぜ!』
「ああ」
Asgard081から送られてきたフレンド申請を承認する。
『えっ、えっ』
俺とアスガルド――羽成を見比べる蕎麦。
『カスミって……アスガルドと知り合い、だったの……?』
「ああ。リアルで面識があってな。蕎麦も会ったことあるんじゃないか? 話はしてないけど」
『えっ――――えぇぇぇぇぇぇえ!?』
酒場中に。蕎麦の大声が響き渡ったのだった。
◇◇◇ ◇◇◇
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【あとがき】
ようやく毎日投稿が板についてきました。これで約束通り碧獣回は終了です! 次回から! 結構リアルでのお話多めになりますが! 振り落とされるんじゃねえぞ!
はい。ほぼ徹夜でテンションおかしくなってます。あは、あはは……。
最後に。
切実に★がほしいです。面白いと思っていただければ、★★★お願いします。
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