第35話 ゴキブリの人


【はじめに】


 前回説明多すぎたので(笑)今回少なめです。路線変更のように思われてしまうといけないので、あとがきまで最後までお読みいただきますよう……(懇願)


―― ――


「……最後にアバターの名前を決めて、っと。出来たぜ、冬城」


 辺がスマホの画面を見せてくる。


「お、鬼族ディーマンにしたのか。ええと、どれどれ……」


 辺が作成したキャラクターは、茶髪の碧眼、額には二つの黒色のツノ。そして、鬼族ディーマンにしては珍しい中肉中背、職業は「軽戦士フェンサー」だった。


「ほう、軽戦士フェンサーを選んだのか。辺のことだから、てっきり暗殺者アサシンとかを選ぶと思ったんだけど」

暗殺者アサシンは出来ることが少ないからな。色んな武器を試してみたいぜ」


「ステ振りも申し分ないな……辺、昔こういうゲームやってたのか?」

「おう。こう見えて俺、昔は結構なゲームっ子だったんだぜ」

「へぇ……そうは見えないな」


 碧羅の獣には「職業」というものが存在する。それらには役割があり――アタッカーやバッファー、ヒーラー、タンクなどがそうだ。これらは「種族」を決めた後に選択することが出来、その際にステータスの振り分けも同時に行う。


「お……もうこんな時間か。俺、次の授業移動教室だから。じゃあな」

「おう。頑張って来いよ、辺」

「辺君、行ってらっしゃい」

「あっ! れーくん置いてかないで! じゃーね、あおりん! あとゆっきーも」


 柏木さんと雑談していた山崎も、ひょこひょこと後を付いて行く。微笑まし……くは無いな。


「楽しみだね! 今日の夜」


 満面の笑みの柏木さん。パーティメンバーが増えるのが、よほど嬉しいようだ。


「そうだな。四人でパーティなんて、初めてじゃないか?」

「そうなんだよね。臨時でたま~にヒーラーの人が入ってくれることはあったけど。大体は私達二人で行動してたからね」

「ああ。これでようやくだな――って……待てよ」


「ん? カスミ、どうかした?」

「俺は盾戦士シールダーだろ。んで、柏木さんが重戦士ヘヴィウォーリアー。辺が軽戦士フェンサーなら……今のところヒーラーが居ないじゃないか」


 基本、碧獣の四人パーティは「アタッカー」「バッファー」「ヒーラー」「タンク」を想定している。

 タンクは俺が居るから別に良いのだが、問題はヒーラーだ。バッファーは居なくても何とかなるが、四人ともなると誰かがヒーラーにならないといけない。


 ヒーラーを舐めてはいけない。自分を含めた四人全員を回復出来なければ、遅かれ早かれパーティが壊滅するのだ。


「あ」


 柏木さんの動作が数秒停止する。


「で、でもさ。千乃ちゃんがヒーラーになればいい話だよ」

「あいつ、多分このこと知らないんだよな……」


 山崎のことだから、バリバリのアタッカーを拵えて来ることだろう――という俺の予感は、程なくして当たることとなった。



 ◆◇◆



「……よし。聞こえるか? 皆」

『聞こえるよー』

『ん。これがHiscodeか……なんかLANEよりフクザツそうだぜ』


『えと、こう……かな?』


 画面の右下に山崎千乃の顔面のドアップが映し出される。


『ち、千乃ちゃん! それカメラONになってるから!』

『うぇ? ――え、ほんと!?』

『千乃、俺は見てない、見てないぜ……』


 背後の山崎の部屋と思われる空間にはベランダがあり――――そこでは、ピンクや空色の下着が風に靡かれてはためいていた。


 思わず顔を覆う。


「……」

『どど、どーすればいいの!? れーくん!!』

「……一旦VCボイスチャット解除するから、その間にカメラOFFにして来い」


 極力画面右下を見ないようにしながら、俺はそう告げる――も、本人は訊き取れていない様子で。


『え? ゆっきー何か言った?』

「はぁ……」


 山崎をVCボイスチャットからキックする。


『び、びっくりしたね』

「全くだ……」

『悪いな、二人とも……ちょっと待っててくれ。ティッシュ取ってくるぜ。お、やべ。カーペットにっ』


 ガタンガタンと辺から聞こえる。


「ん。どうした、辺」


 一呼吸置いたのち。


『鼻血出た』


「お、おおう……」


 ◆◇◆


「さて。気を取り直して……聞こえるか?」

『聞こえるよー』

『ああ、聞こえるぜ』

『聞こえるよ!』


 碧羅の獣を起動。リーズナ・ブルクにテレポートする。後から、蕎麦もリーズナ・ブルクに到着した。がしがしと鎧を軋ませながら、俺と合流。


「お。柏木さん――蕎麦は来たっぽいな。辺と山崎も碧獣は起動したか?」

『おう』

『うん。ばっちり』

「じゃあ、取り敢えず開始ボタンを押してくれ。チュートリアルの後、リーズナ・ブルクにテレポートするはずだ」


 暫くして。


『お。始まったみたいだぜ』


 辺は鼻声だ。鼻にティッシュでも詰めてるんだろうか。


『ほへぇ。なんか、すっごいね……何て言うの、この……画面の』

「グラフィックのことか?」

『そーそー! それだよゆっきー』


 それからまた暫くして。辺と山崎と思われる二人組のプレイヤーが、同時にリーズナ・ブルクにテレポートされた。


 俺と蕎麦は二人に近寄る。


「一応確認のため、だな。俺のネームタグはkasumi1012だ」

『私はSob_A221。カスミからは蕎麦って呼ばれてるよ』

『おっ。俺はRenKon777だぜ』


 辺のプレイヤーは恭しく紳士のように頭を下げる。初期エモートにこんなのは無かったから……まさかこいつ、課金したのか?


『あたしは……』

『千乃ちゃん、どうしたの?』

「山崎。ネームタグ教えてくれ」


 水を呷る。


『ん。どーした、千乃』


『あたしは――chikochiko_land1212チコチコランドいちにいちに

「ブフッ!?!?」


 盛大に。俺は水を拭き出した。


「あっ! モニターが」

『どど、どーしたの、千乃ちゃん。その名前』

『千乃、やめてくれ。鼻血が止まんねえぜ』

『あたしが付けたんじゃないよ! お兄ちゃんが付けたの!』


 山崎はマイク越しでも分かるほどの乱心状態でこう弁明した。


 山崎の兄さん――ゴキブリの人と言えば分かるだろうか。山崎は自分一人でアバターを作るのが難しかったので、寝ていた兄を起こしたところ。彼はかなり不機嫌な状態だったようで。寝ぼけ眼を擦りつつ、散々山崎の要望を聞きながらアバターを作成した後――最後の最後にふざけた名前を付けたようだった。


 山崎は涙目で、不安そうに訊いてくる。


『これ、変えられるんだよね……?』

『千乃ちゃん……それは、その……残念、ながら』


『あああああん!!』


 ちなみに。

 山崎千乃の容姿は獣族ビーストマン。職業は「蛮族バーバリアン」。バリバリのアタッカーだった。


 ◇◇◇ ◇◇◇


 面白いと感じて下されば、★、♥、フォローなどで応援お願いします!!


【あとがき】


 二日連続投稿ゥ!

 早起きって得ですね。このくらいのボリュームなら書き上げられるので。ラブコメを読みに来てくれている方には申し訳無いのですが、あと二話、いや、一話ほど碧獣回が続くと思います! 本当にごめんなさい! ちゃんとラブコメになるので!

 露骨な路線変更のように思われがちですが、全然本筋から逸れてはいません。これも佳純くんと葵ちゃんの進展に必要なこと……。すべてが集約するのがいつになるかはまだ話せませんが。その舞台の解像度を粗くしておくわけにはいきません。


 とはいえ。「この作品は自分には合わないかな……」と思われた方は、フォローを解除して頂いても構いません。僕にフォローを強制する権利は無いのです……。


 最後に。

 切実に★がほしいです。面白いと思っていただければ、★★★お願いします。

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