第35話 ゴキブリの人
【はじめに】
前回説明多すぎたので(笑)今回少なめです。路線変更のように思われてしまうといけないので、あとがきまで最後までお読みいただきますよう……(懇願)
―― ――
「……最後にアバターの名前を決めて、っと。出来たぜ、冬城」
辺がスマホの画面を見せてくる。
「お、
辺が作成したキャラクターは、茶髪の碧眼、額には二つの黒色のツノ。そして、
「ほう、
「
「ステ振りも申し分ないな……辺、昔こういうゲームやってたのか?」
「おう。こう見えて俺、昔は結構なゲームっ子だったんだぜ」
「へぇ……そうは見えないな」
碧羅の獣には「職業」というものが存在する。それらには役割があり――アタッカーやバッファー、ヒーラー、タンクなどがそうだ。これらは「種族」を決めた後に選択することが出来、その際にステータスの振り分けも同時に行う。
「お……もうこんな時間か。俺、次の授業移動教室だから。じゃあな」
「おう。頑張って来いよ、辺」
「辺君、行ってらっしゃい」
「あっ! れーくん置いてかないで! じゃーね、あおりん! あとゆっきーも」
柏木さんと雑談していた山崎も、ひょこひょこと後を付いて行く。微笑まし……くは無いな。
「楽しみだね! 今日の夜」
満面の笑みの柏木さん。パーティメンバーが増えるのが、よほど嬉しいようだ。
「そうだな。四人でパーティなんて、初めてじゃないか?」
「そうなんだよね。臨時でたま~にヒーラーの人が入ってくれることはあったけど。大体は私達二人で行動してたからね」
「ああ。これでようやくだな――って……待てよ」
「ん? カスミ、どうかした?」
「俺は
基本、碧獣の四人パーティは「アタッカー」「バッファー」「ヒーラー」「タンク」を想定している。
タンクは俺が居るから別に良いのだが、問題はヒーラーだ。バッファーは居なくても何とかなるが、四人ともなると誰かがヒーラーにならないといけない。
ヒーラーを舐めてはいけない。自分を含めた四人全員を回復出来なければ、遅かれ早かれパーティが壊滅するのだ。
「あ」
柏木さんの動作が数秒停止する。
「で、でもさ。千乃ちゃんがヒーラーになればいい話だよ」
「あいつ、多分このこと知らないんだよな……」
山崎のことだから、バリバリのアタッカーを拵えて来ることだろう――という俺の予感は、程なくして当たることとなった。
◆◇◆
「……よし。聞こえるか? 皆」
『聞こえるよー』
『ん。これがHiscodeか……なんかLANEよりフクザツそうだぜ』
『えと、こう……かな?』
画面の右下に山崎千乃の顔面のドアップが映し出される。
『ち、千乃ちゃん! それカメラONになってるから!』
『うぇ? ――え、ほんと!?』
『千乃、俺は見てない、見てないぜ……』
背後の山崎の部屋と思われる空間にはベランダがあり――――そこでは、ピンクや空色の下着が風に靡かれてはためいていた。
思わず顔を覆う。
「……」
『どど、どーすればいいの!? れーくん!!』
「……一旦
極力画面右下を見ないようにしながら、俺はそう告げる――も、本人は訊き取れていない様子で。
『え? ゆっきー何か言った?』
「はぁ……」
山崎を
『び、びっくりしたね』
「全くだ……」
『悪いな、二人とも……ちょっと待っててくれ。ティッシュ取ってくるぜ。お、やべ。カーペットにっ』
ガタンガタンと辺から聞こえる。
「ん。どうした、辺」
一呼吸置いたのち。
『鼻血出た』
「お、おおう……」
◆◇◆
「さて。気を取り直して……聞こえるか?」
『聞こえるよー』
『ああ、聞こえるぜ』
『聞こえるよ!』
碧羅の獣を起動。リーズナ・ブルクにテレポートする。後から、蕎麦もリーズナ・ブルクに到着した。がしがしと鎧を軋ませながら、俺と合流。
「お。柏木さん――蕎麦は来たっぽいな。辺と山崎も碧獣は起動したか?」
『おう』
『うん。ばっちり』
「じゃあ、取り敢えず開始ボタンを押してくれ。チュートリアルの後、リーズナ・ブルクにテレポートするはずだ」
暫くして。
『お。始まったみたいだぜ』
辺は鼻声だ。鼻にティッシュでも詰めてるんだろうか。
『ほへぇ。なんか、すっごいね……何て言うの、この……画面の』
「グラフィックのことか?」
『そーそー! それだよゆっきー』
それからまた暫くして。辺と山崎と思われる二人組のプレイヤーが、同時にリーズナ・ブルクにテレポートされた。
俺と蕎麦は二人に近寄る。
「一応確認のため、だな。俺のネームタグはkasumi1012だ」
『私はSob_A221。カスミからは蕎麦って呼ばれてるよ』
『おっ。俺はRenKon777だぜ』
辺のプレイヤーは恭しく紳士のように頭を下げる。初期エモートにこんなのは無かったから……まさかこいつ、課金したのか?
『あたしは……』
『千乃ちゃん、どうしたの?』
「山崎。ネームタグ教えてくれ」
水を呷る。
『ん。どーした、千乃』
『あたしは――
「ブフッ!?!?」
盛大に。俺は水を拭き出した。
「あっ! モニターが」
『どど、どーしたの、千乃ちゃん。その名前』
『千乃、やめてくれ。鼻血が止まんねえぜ』
『あたしが付けたんじゃないよ! お兄ちゃんが付けたの!』
山崎はマイク越しでも分かるほどの乱心状態でこう弁明した。
山崎の兄さん――ゴキブリの人と言えば分かるだろうか。山崎は自分一人でアバターを作るのが難しかったので、寝ていた兄を起こしたところ。彼はかなり不機嫌な状態だったようで。寝ぼけ眼を擦りつつ、散々山崎の要望を聞きながらアバターを作成した後――最後の最後にふざけた名前を付けたようだった。
山崎は涙目で、不安そうに訊いてくる。
『これ、変えられるんだよね……?』
『千乃ちゃん……それは、その……残念、ながら』
『あああああん!!』
ちなみに。
山崎千乃の容姿は
◇◇◇ ◇◇◇
面白いと感じて下されば、★、♥、フォローなどで応援お願いします!!
【あとがき】
二日連続投稿ゥ!
早起きって得ですね。このくらいのボリュームなら書き上げられるので。ラブコメを読みに来てくれている方には申し訳無いのですが、あと二話、いや、一話ほど碧獣回が続くと思います! 本当にごめんなさい! ちゃんとラブコメになるので!
露骨な路線変更のように思われがちですが、全然本筋から逸れてはいません。これも佳純くんと葵ちゃんの進展に必要なこと……。すべてが集約するのがいつになるかはまだ話せませんが。その舞台の解像度を粗くしておくわけにはいきません。
とはいえ。「この作品は自分には合わないかな……」と思われた方は、フォローを解除して頂いても構いません。僕にフォローを強制する権利は無いのです……。
最後に。
切実に★がほしいです。面白いと思っていただければ、★★★お願いします。
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