第34話 赤黒く光を帯びている


【はじめに】


 今回は説明を多分に含みます。物語の進行上必要なものではありますが、読み飛ばして貰って構わないです。僕の筆が暴発しただけですので(泣)


―― ――


 俺達の目の前に立っていたのは――細身の男性プレイヤーだった。両手に小鎌シックルを持っており、その刃先は烏羽色。それが、赤黒く光を帯びている。


 暗闇と立ち込める霧のせいで容姿は分からないが、見るからに「強者つわもの」だ。


『何だァ? こいつらは……ケッ、ただの初心者かよ。ここは俺様の狩り場だから、とっとと出てけよなァ』


 公開VCボイスチャット設定にしているのか、そんな音声がダダ漏れだ。口調は粗暴だが……中性的な声のせいで、声の主の性別を判別することは難しい。


 俺は呆気にとられるも――。


【グアァアァアァッ!!】


 ロードの咆哮が、更に耳を劈き。一瞬にして、思考を取り戻す。


『チッ。あーあー、うるせェうるせェ』


 冷静になれ。


 いくらこの人がデビルゴブリンを一掃できるほどの実力者と言えども、ロードに敵うはずがない。俺が言うのもあれなのだが、グラコニアは四人一組フォーマンセルでの挑戦が絶対条件のダンジョンだ。それをたった一人で来るなんて無謀が過ぎる。


〈kasumi1012 :そこの人、早く逃げた方が良い!〉

〈kasumi1012 :そいつは二人掛かりでも手に負えないんだ〉

『ケッ。外野は黙ってろよ……今』


 俺の忠告に聞く耳を持たず、男は小鎌シックルを逆手持ちにする。湾曲した刃が拳と同じ方向に向く。

 男は両手に小鎌シックルを持ったまま、クラウチングスタートのような姿勢を取り――。


『楽にしてやるからよ』





 ――――刹那。男の姿が消えた。





 シュピィィィンッ


 細く、鋭い音がしたかと思えば。


 視界を斬撃がぱっくりと裂き――それは、ロードの首筋をしっかりと捉えていた。


【ガッ……ガァァッ……】


 ロードは膝をつき、前のめりに倒れ――。


 黒い霧となって消えた。


『……よっと』


 いつの間にか飛び上がっていた男はくるくると何回転かしたのち地面に着地し、小鎌シックルを腰のベルトにカッコよく収めると。


 その場に散乱する戦利品から、紫色――ボス以外の魔獣が落とす、緑、青、紫のレアリティの戦利品のうち、最もレアなものだけを拾い集める。

 悪魔のツノ、トゲ付き棍棒の破片、簡易的な即時アーティファクト……。


『……チッ。しけてんなァ』


 先ほどのデビルゴブリン・ロードが発していた、瘴気とも呼べる霧が夢散したお陰で、視界は良好になっていた。どうやらあの霧には、魔獣を興奮させるバフがあったらしい。そのせいで、ロードは周囲にデビルゴブリンを寄せ付けていたのだ。


 そして。


 ここに来て、ようやく目の前のプレイヤーの容姿が分かってきた。


 捻じ曲がった赤黒いツノに、消し炭色の肌。そこに彫り込まれた、禍々しいタトゥー。髪の色は、両手の鎌の刃と同じ烏羽色。その瞳は真紅で、眼球結膜は黒く――目つきは悪く、どこか柏木さんを彷彿とさせるものだったが、それだけではない。


 狂気を感じるキャラメイクだ……。種族は鬼族ディーマンだろうが、ここまで悪趣味なアバターを作り出せるプレイヤーも珍しい。

 中二病ってやつだろうか――って、助けてもらっておいて何を考えてるんだ俺は。


 VCボイスチャットの範囲を「パーティ内」から「公開」に設定する。


「あ、ありがとう。本当に助かった」

『――あァ?』

『えと、カスミ。今、何が起こってるの……?』


 蕎麦はダウン状態の影響で視界が狭まっており、周囲の状況を上手く理解できていないようだった。


「ああ。野良の人が助けてくれたんだ」

『そうなの?』

『助けたつもりなんてねェよ。俺様はただ日課をやってただけだ』

「いや、それでもだ。礼がしたい」


『……チッ。チョーシ狂うぜ、全く』


 男はそう言うと、颯爽とダンジョンの奥地へと消えてしまった。最後にちらりと見えたネームタグ――「|Lo*i_*612」。


「ロ、イ……」

『え、えと。あの人が助けてくれたんだよね。お礼、言えなかったなぁ……』

「それもそうだけど……取り敢えず、増援が来る前にずらかるぞ」

『う、うん』


 ダウン状態の蕎麦を背負い、階段を登っていく。「背負う」行為には気力ファイを使用しないが、移動速度が落ちるので隙が生まれやすく危険なのだが――ダウン状態のプレイヤーを移動させるには、これしか手段がない。


「そういや。今までも何度かこうやってダンジョンから逃げ帰ったことがあったな」

『ふふ。あの頃は始めたてだったからね。カスミも私も。そのせいで、弱っちいのに難易度の高いダンジョンに殴り込んで行って、何度も負けたっけ』

「この状況も似たようなものだろ」


 蕎麦は俺に背負われたまま、足をばたつかせる。


『でもさ! 私達だって、けっこう強くなってるはずなんだよ? アーティファクトも沢山集めてるし、アバターのレベルも上がってるし。それなのにあのHPの減りようと言い、さっきのロードを一撃で倒したプレイヤーと言い……やっぱりおかしいよ、このダンジョン!』


 先ほどの「ロイ」のお陰か、出口に辿り着くまでに一度も魔獣と遭遇せず。


「負け惜しみ言っても仕方ないだろ。結局のところ、俺達の力量と人員不足が勝敗を分けたんだ。ま、あのロイって人は確かに異常だけどな」

『むむ……』

「負けてしまったものは仕方ない。次に活かすぞ」


『……私達、ほんとに攻略出来るのかな』

「無理だ。今はな……でも。いつか必ず攻略する。俺達なら出来るはずだ」


『……うん』


 俺と蕎麦は安全にダンジョンを出た後――真っ直ぐリーズナ・ブルクまで帰還したのだった。



 ◆◇◆



「……ってことがあったんだ~」

「ほへぇ……その「ロイ」って人、すんごいゲーマーなんだねぇ……」

「そうなんだよ。カスミが言うには、一瞬でしゅばばばーって魔獣達を倒してたって。あれは、相当やり込んでないと出来ないよ」


 柏木さんは、昨日碧獣で起こった出来事を早速山崎達に話していた。


「グラコニアってのが四人一組フォーマンセル必須のダンジョンなら、そいつは一体何モンなんだって話だぜ。常軌を逸してるっつーか」


「そうなんだよねぇ……。カスミは、アイアンメイデンとかのトップランカーじゃないかって言ってたけど……そう簡単に会えるものなのかなぁ。ロイなんて名前の人、聞いたことないし」

「ま。その「グラコニア」をたった一人で攻略出来るんだから、そのくらい名は知れてるはずだからなぁ……ううむ、謎だぜ」


 山崎は二人の話を聞きながら、もっもと弁当を食べる。


「そう言えば。テスト後は二人とも碧獣するって話があったけど、あれはどうなったんだ?」


 箸を進めつつ俺がそう切り出すと、辺が反応する。


「俺はもうダウンロードしてるぜ。千乃はまだっぽいけどな」


 辺はスマホを取り出し、碧獣を起動。碧獣は幅広いプラットフォームを展開しており、パソコン、Switshスウィッシュなどの家庭用ゲーム機、スマホ等で遊ぶことが出来る。


「あー……。ほら、あたしのスマホ容量あんま無いからさ。それの断捨離でちょっと遅れそう。今日の夜には出来ると思うよ」

「そっか」


 先に食べ終えて暇そうな辺に、俺はこう提案してみる。


「じゃ、辺のアバターでも作るか?」

「あばたー……ああ、これのことだな」


 碧獣の画面をタタンと操作し、アバター制作画面を起動する。素っ裸の人間(大事な部分は隠れているが)が表示された。


「おぉ?」

「まずは種族を選ぶんだ。一番上の設定画面だな」


 辺は言われるがまま、種族設定画面を表示する。


「うわ。色々あるぜ、これ……」

「説明は必要か?」

「お、頼むぜ」


 ◆◇◆


 碧羅の獣には、「人族ヒューマン」「長耳族エルフ」「矮人族ドワーフ」「鬼族ディーマン」「獣族ビーストマン」の五つの主要な種族が存在する。

 これらの種族には、得意な武器と苦手な武器が存在する。

 ここで、同時に武器種についても解説する。


人族ヒューマン」は平均的な容姿を持つ。基本的に全ての武器をバランスよく扱えるオールラウンダーだが、これと言って秀でたものはない。よって、強化時の倍率は低めとなっている。


長耳族エルフ」は長い耳と高い背、華奢な体が特徴。は弓をはじめとする遠距離武器の扱いに長けている。吹き矢などがそうだ。

 大剣ロングソード戦斧バトルアックスなど重量武器、盾全般の扱いは苦手だ。


矮人族ドワーフ」は低い身長と筋骨隆々な肉体。大剣ロングソード戦斧バトルアックス、ハンマーなどの重量武器と大盾の使用に長けている。

 スピアやボーラ、投げナイフなどの投擲武器の扱いは苦手だ。


鬼族ディーマン」はすらりと高い背に鬼のツノが特徴。近接格闘術に長けている。小鎌シックルやナイフ、ナックルダスターなどを巧みに扱う。小盾の使用にも長ける。

 弓を始めとする遠距離武器、大盾の扱いは苦手だ。


獣族ビーストマン」は獣の耳に獣の尻尾が特徴。手先が器用で、罠の設置に長けている。具体的には、設置にかかる時間を半減することが出来る。


 スピアや三叉槍トライデント、投げナイフなどの投擲武器を使用するほか、戦闘時に指先から鋭い爪を出して攻撃することが出来る。近接攻撃時の火力において、しばしば鬼族ディーマンと比べられる。また、投擲武器と罠以外、大盾の扱いは苦手だ。


 ◆◇◆


 碧羅の獣には「近接武器」「遠距離武器」「投擲武器」の三つの武器群がある。


 それとは別に「軽量武器」「重量武器」の概念も存在する。軽量武器は他の軽量武器との併用が可能だが、重量武器はそれ以外の装備が出来ない。


 近接武器は「短剣ショートソード」「片手剣ソード」「大剣ロングソード」「小鎌シックル」「大鎌サイス」「ナイフ」「ナックルダスター」「戦斧バトルアックス」「ハンマー」「モーニングスター」の十種。


 そのうち、軽量武器は「短剣ショートソード」「小鎌シックル」「ナイフ」「ナックルダスター」の四種だ。


 遠距離武器は「短弓ショートボウ」「ボウ」「長弓ロングボウ」「クロスボウ」「吹き矢」の五種。


 そのうち、軽量武器は「短弓ショートボウ」の一種だ。


 投擲武器は「スピア」「三叉槍トライデント」「投げナイフ」「ブーメラン」「火炎瓶」の五種。


 そのうち軽量武器は「投げナイフ」「ブーメラン」「火炎瓶」の三種だ。


 計二十種の武器種が存在する。これらは、就職する職業によって使用できる武器が異なる。


 更に、これら武器種とは違い「拳」と「罠」と「盾」というものが存在する。


 拳は言わずもがな、「鬼族ディーマン」の専売特許である。近接格闘術に長けた彼らは、武器を持たずしても効果力を叩き出せるだろう。


 他の種族でも拳を使った戦闘は可能だが、獣族ビーストマンなら爪を使った方が火力が出る他、矮人族ドワーフ長耳族エルフではそもそも接近戦において拳を使う場面が少ないため、あまり鬼族ディーマン以外が拳を使っている場面を見ることは無い。


 罠(トラップ)は、ダンジョン内に設置したり自分の目の前に展開したり出来る武器のことだ。一定時間魔獣のヘイトを買ってくれる「デコイ」や、敵を足止めできる「ボーラ」、敵が踏むと一定時間デバフ効果を付与する「地雷」などがそうだ。


 そして、盾。


小盾スモールシールド」「シールド」「大盾グレートシールド」の三種が存在する。


 小盾は主に「拳」や「短剣」、「ナックルダスター」を使用するプレイヤーが装備出来る、攻撃を防げば被ダメージを45%カットする武器だ。軽量武器扱いである。


 盾は「片手剣」「大鎌」「スピア」を使用するプレイヤーが装備出来る、攻撃を防げば被ダメージを65%カットする武器だ。軽量武器扱いである。


 大盾は、攻撃を防げばダメージを85%カットする武器だ。矮人族ドワーフなどが使うことを想定した「重量武器」扱いであるため、他の武器を装備することは出来ない。


 そして。攻撃を防ぐ際は小盾や盾を装備したプレイヤーが前線に立つことで大体の場合事足りるため、大盾の出番はほとんどと言っていいほどない。

 よって、ギルド等でも大盾を扱うプレイヤーは門前払いされる――。


 これが大盾を使用する「盾役タンク」が不遇とされる理由だ。


 ◆◇◆


「へぇ……作り込まれてんな、このゲーム」

「ああ。組み合わせ次第で強力なアバターを作ることも出来るぞ。その分使用できる武器は限られてくるけどな。色んな武器をバランスよく使いたいなら、取り敢えず人族ヒューマンにすればいい」


「俺的には、鬼族ディーマンとか獣族ビーストマンも楽しそうなんだがな……ううむ」


 辺は悩みながらも、アバターの作成を始めた。


 ◇◇◇ ◇◇◇


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【修正】


 第33話の属性説明に「禽鳥きんちょう属性」を追加しました。抜けてました。


【あとがき】


 執筆が間に合わず、ゴールデンタイム帯の公開になってしまいました……本当に申し訳ないです。あれこれ設定を練っているうちに楽しくなってしまいまして(笑)

 やっぱり、ファンタジー系を書いてた人間って言うのはこういうところで暴発しちゃうものなんですね。自重したほうがいいんでしょうか。


 前作(と言っても未完でほぼ打ち切りのようなものですが)から逆輸入したりしたいんですよね。折角練った設定を水泡に帰したくはないので。

 まあ、ゴールデンタイムに公開することを決めたのは単に執筆時間だけではなくて。今までは朝に投稿していたのですが、ゴールデンタイムに投稿したらどれだけPV数を稼げるのかの実験も兼ねて、なのですよ。まあ、僕の生活習慣的に継続はきつそうですが(笑)


 最後に。

 切実に★がほしいです。面白いと思っていただければ、★★★お願いします。

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