第33話 当たって砕けるんだよ
「んぐっ……!」
『んっ……だめだっ、これ……んっ。やばい、死んっじゃうっ……! あっ』
「蕎麦っ……
『もっ……もうない……よぉっ……』
禍々しい模様が彫り込まれた壁に、二人の男が追い込まれていく。暗闇からモーニングスターや棍棒などで持続的に攻撃され、じわじわとHPが削られていく。
大量の黒い人型魔獣の群れによって、蕎麦と俺は窮地に。俺は盾で前方からの攻撃を防ぎ、背後の蕎麦が
ここ「罪科に迫るもの」は十柱あるグラコニアの一柱であり、黒い敵――悪魔属性と類人猿属性を持つ「デビルゴブリン」が大量に出現するのが特徴のダンジョンだ。
壁の端に、小さな通路を見つける。
「こっちに逃げられそうだ! 一旦俺が時間を稼ぐからその隙に行け!」
『分かったっ……!』
蕎麦が先に通路に逃げ込み――俺は盾で通路を塞ぎ、魔獣達の侵攻を食い止める。
ガガンッガンッと攻撃を盾で弾く音が、ダンジョン内に響き渡った。
◆◇◆
碧獣内の敵モンスター――魔獣には十四の属性がある。
主属性として「陸生生物属性」「地底生物属性」「水生生物属性」の三種類。
副属性に「類人猿属性」「
特殊属性として「悪魔属性」「天使属性」「
「陸生生物属性」――陸上で生活する生物を指す。
「地底生物属性」――地中で生活する生物を指す。
「水生生物属性」――水中で生活する生物を指す。
ちなみに、両生類と思われる場合は「陸生生物属性」と「水生生物属性」の両方の属性が適用される。
「類人猿属性」――人型生物を指す。半人半獣等もこれに当てはまる。
「禽鳥属性」――分類は「鳥類」と同等。スズメ、ハト、カラスなど。
「爬虫属性」――分類は「爬虫類」と同等。ヘビ、トカゲ、カメなど。
「哺乳属性」――分類は「哺乳類」と同等。ヒト、イヌ、ネコなど。
「昆蟲属性」――分類は「昆虫類」と同等。バッタ、カブトムシ、アリなど。
「甲殻属性」――分類は「甲殻類」と同等。カニ、エビ、シャコなど。
「軟体属性」――分類は「軟体動物」と同等。イカ、タコ、ウミウシなど。
「多足属性」――クモなどを指す。アラクネ等もこれに当てはまる。
「悪魔属性」――変異によって角や悪魔の翼、尻尾を獲得した生物を指す。
「天使属性」――変異によって天使の輪や天使の翼を獲得した生物を指す。
「王獣属性」――ダンジョンボスを指す。
これらの属性に対しては、アーティファクトを切り替えることによって、ダメージを上昇させることが出来る。
例を挙げるならば、「
◆◇◆
ゴブリンを突き飛ばしたところで俺は通路を走り抜け――扉をガタンと閉める。扉の先は袋小路になっており、ダンジョンの休憩場所となっているようだった。
「はぁ……はぁ……」
『何とか逃げ切れたね……』
「これがグラコニア……攻略できる気がしない」
俺はふらふらと歩き、ばたんと倒れ込む。「
盾を壁に立て掛け、座り込む。奥を見ると、蕎麦が何やら武器を選んでいた。
『まだ諦めちゃだめだよ、カスミ』
そう言って。蕎麦は
普段使いはしていない、蕎麦の奥の手と言える武器だ。
「平気なのか? HPがもう切れそうだぞ」
『この状況を打開するには、もうこれしかないよ』
そう。「蛇頭龍尾」の真価は、HPが低下している時に発揮される。HPが50%以上の時は攻撃力が減少するという一見使い物にならない武器なのだが、その名の通りHPが50%を下回ると「攻撃力+15%」される。これは更にHPが10%ずつ低下していくたびに加算されていき、最大で75%の攻撃力増加となるのだ。
「……やるしかないのか」
『そうだよ。当たって砕けるんだよ』
「砕けちゃだめだろ」
『えへへ』
諸刃の剣とはこのことだが、それは
蕎麦のHPは既に10%以下。使用するには絶好の機会だ。
「よっと」
俺は立ち上がる。
「ふぅー……よし。それじゃあ下層まで一気に降りるぞ」
『分かった!』
扉を勢いよく開けると、そこからデビルゴブリンの群れが雪崩れ込んでくる。俺はそれを盾で弾きつつ、背後に居る蕎麦を守りながら前進。蕎麦は後ろに弾かれたゴブリンの処理だ。蕎麦は
デビルゴブリンは「ぎゃあ」「ヴぁあぇ」などと濁った鳴き声を上げながら、左右に散り。それが蛇頭龍尾によって一刀両断されていく。
このくらいなら、
「よし、行ける!」
『うん、これならこのデビルゴブリンの大群でも何とかっ……』
ガガガッ ガガガガンッ
ザシュッ ジャキィィインッ
『ねぇ、なんかさっきより増えてない!?』
「確かにっ……盾で弾く数が段違いだ」
『ちょっと……もうやばいかもっ……カスミ、「
「無理だっ……この数だと気休めにもならないぞ」
『そっ、それもそうだけどっ……』
そんな俺達の苦悶など知る由もなく。デビルゴブリンはどんどんと押し寄せてくる。
「まずい。そろそろっ……
計算外だ。途中から増援が来るなんて思っていなかった。いや、これこそが「グラコニア」と言ったところだろうか。一定時間ごとにダンジョン内の構造が切り変わり、魔獣の数もそれに応じて変化する。いつどのタイミングでどこから魔獣が現れるのかが、全く予想できない。
だからこそ、グラコニアは攻略サイトでも全く攻略情報にならないのだ。せいぜいすることと言えば「ちゃんとアバターと武器を強化しましょう!」くらいだからな。
その時。
【グゥアアァアァアァアァアアアッ!!!!!】
ヘッドフォン越しに鼓膜を劈く、とんでもない呻き声が聞こえた。
「この声……まさか」
『カスミ……見て、奥』
蕎麦に言われるがまま。ダンジョンの奥を見る。
ズシッ ズシンッ
「あ、あれは……――――」
ダンジョンの中ボス――デビルゴブリン・ロードがこちらに向かって歩き出していた。
▼デビルゴブリン・ロード
「地底生物属性」「類人猿属性」「悪魔属性」
属性こそデビルゴブリンと変わらないが、そんなことは問題ではない。捻じ曲がった紫色のツノに、筋骨隆々かつ巨大な肉体。腹に浮き出た腹筋は八つに割れており――背中からは黒々とした悪魔の翼。これで中ボスとは、なかなか酷というものである。
『ひっ!?』
「まずいぞ……これはっ!」
ロードはデビルゴブリンの群れを蹴散らしながら、こちらに向かって全力ダッシュを始めたのだ。その様に謎の既視感を覚えたことは、この状況に絶望した脳が余計な情報を引き出したのだろう。
【グゥルアアァアァアァアァッッ!!!】
ロードはあっという間に俺達の目と鼻の先までやって来る。そして、右手に持ったトゲ付きの禍々しい棍棒を大きく振り上げ――。
【ぐぎゃあ】
【ぶぎゅぅ】
デビルゴブリンごと、俺達も殴り潰――されはしなかった。
「
『カスミッ!!』
「蕎麦っ! 連撃するぞ!」
『――分かったっ』
【ガァァアァッッ!!】
ロードは一瞬怯むも――すぐに立ち直り。蕎麦にヘイトが向かう。
「蕎麦っ! 一旦戻って来い!」
『うんっ』
蕎麦が俺の方に走ってくるも、背後に迫る棍棒が歪に空間を掠め。風圧によって、蕎麦の体は大きく吹き飛び――ダンジョンの壁に大きく叩きつけられた。
『
「くそっ……!」
急いで蕎麦に駆け寄り、
「絶対に……守るっ!」
『私は平気だから! カスミだけでも逃げてよ』
俺は蕎麦の相棒だ。蕎麦にとって、俺は頼れる相棒なのだ。ここでこいつを見捨てるわけにはいかない。蕎麦が平気だと言っても、だ。
【グワァァァア!!】
ガァアァアンッ
「ぐっ……!」
『カスミ!? 聞こえてる!?』
蕎麦のHPはもうミリに近い。HPバーが、赤に点滅している。動けそうにない。
ガンッ ガァァアアァンッ
棍棒での連続攻撃。これをまともに食らったら、一体どこまでHPが削れるか――。
【ガァァアァッッッ!!!!】
その時。
ボコォオォンッ
ロードが棍棒を投げ捨て、両手の拳を地面に打ち付ける。
「何ッ!?」
『わぁ――!?』
「やばいっ!」
俺は
【がぁぁあ!】
【んぎゃぅあ!!】
【げげがが】
【ぐごがぎゃう】
これは、勝てない――――。
その瞬間。
【ぎゃ!?】
【がぁぁフ!?!?】
デビルゴブリンの群れを穿つ、一つの影。
【んぎゃあ……】
【げげぇ……】
その影はタッタッタッとダンジョンの壁を駆け抜け――デビルゴブリンを一掃し。
俺達の前に立ちはだかり、こう言った。
『何だァ? こいつらは……ケッ、ただの初心者かよ。ここは俺様の狩り場だから、とっとと出てけよなァ』
◇◇◇ ◇◇◇
面白いと感じて下されば、★、♥、フォローなどで応援お願いします!!
【あとがき】
いつもより少し遅れてしまいました……急ぎで書いたので誤字等あるかもしれません。
補足として、碧獣の「グラコニア」のダンジョンシステムについて解説しておきます。一定時間ごとにダンジョンの構造が切り替わるため、切り替わる時間にダンジョンに潜っていたパーティはそのまま取り残され、次にダンジョンに潜るパーティは切り替わった後のダンジョンに入ることになります。取り残されたパーティはダンジョンを攻略するか全滅したのち帰還――と同時に最後に残っていたダンジョンは消滅。
切実に★がほしいです。面白いと思っていただければ、★★★お願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます