棘姫と碧羅の獣

第31話 筋骨隆々な男のそれ


 翌日。


 柏木さんと別れ、教室に入った俺は、早速クラスの男子に呼び止められる。


「なぁ、冬城。お前さ、柏木の友達なんだよな?」


 昨日、俺に詰め寄ってきた奴の一人だ。


「あ、ああ。そうだけど……どうかしたのか?」

「ちょっと俺のこと紹介してくんねえかな。あ、ほら。適当に俺のことを昔から仲良い友達みたいに言ってさ」


 その男子はにやりと笑いながら、そう頼んでくる。俺は思わずため息が漏れ――。


「……はぁ。悪いけどそれは出来ない」

「えぇ!? 頼むよ~」

「無理だ」


 そう。無理だ。俺には親友を欺くことなんて出来ない。それに、もし仮に俺がこいつのことをずっと前からの友達だなんて言ったとしても、いつかぼろが出るだろう。

 それも、昨日初めて話したような奴だ。どんなに取り繕っても違和感は拭えない。


 と。後から教室に入ってきた二人組と、視線がかち合った。


「ん。どしたん、山田」

「聞いてくれよ~。冬城の奴に柏木に俺のこと紹介してくれって言ったら断られたんだよ」

「んあ? 冬城、もしかして柏木さんを独占する気か? あれは皆のものだぞ?」


 何言ってんだ、こいつ。柏木さんを呼ばわりするな。


「そんなつもりはないけ――」

「なら良いじゃねえか。紹介してくれよ~、冬城君」


 山田某にフルネームを呼ばれる。それを聞いた二人組は――。


「え? 冬城の下の名前って、カスミっつーの? 今知ったわ」

「あっはは、カスミ、カスミって。女の子かよ」

「うはっ、それなぁ。今時居ないでしょ、そんな奴」

「え? え? そんなに面白かったか、それ? そ、そうかぁ?」


 あーあ。やっぱりこうなるのか。てかこいつら、高校生にもなってこんなくだらないことで爆笑できるのか。最後にこの名前を揶揄からかわれたの、小学四年生だぞ。


「冬城のことカスミちゃんって呼んでいーか?」

「だめだ。はあ……もうそこをどいてもらっていいか、荷物置きたいんだ」

「それは出来ん。交換条件だ。あだ名を付けられるか、柏木さんに紹介するか」


 面倒くさすぎる。何でそんなに柏木さんに執着するんだ。


「どうする? 

「……」


 その時。背後のドアがガラリと開く。

 直後。目の前に居た男子が上ずった声を出す。


「か、かしわぎっ」


 思わず振り返ると、そこには赤紫色マゼンタの瞳――柏木さんの姿があった。

 そして。柏木さんは男子達を物凄い目力で睨みつけていた。


「柏木さん……」

「カスミ。来て」

「あ、ああ――って、ちょっと」


 柏木さんは俺の手を引いて、早歩きで廊下を通り抜けていく。普段は使われていない階段の踊り場まで来て。柏木さんはふと、俺の手を離した。


「……ごめん。これしか思いつかなくて」

「助かった。ありがとう、柏木さん」

「……カスミ、あいつらに何か言われてたよね」


 どこから聞いてたんだ、柏木さん。


「ああ。ちょっとな」

「ちょっとじゃなくて。何言われてたの」


 柏木さんは鋭い剣幕でそう訊いてくる。


「……柏木さんのことを紹介してくれって迫られた」

「あとは?」

「……」


 すぅ――と一呼吸を置き。



「……僕はね。怒ってるんだよ、カスミ」



 今まで聞いたこともないような低い声で、柏木さんはそう言った。


「柏木さんが怒る必要は無いだろ。俺が振り切るのが下手だったってだけで――」

「本当は全部聞いてたんだ。最初から、最後まで」

「……え」


 柏木さんはスカートを握りしめ。


「僕の親友をあんなに言うなんて……あいつら、絶対許さない」

「あぁ、いや。俺は気にしてないから」

「僕が気にするんだよ。言ったでしょ、昨日」


 というか。何か柏木さん、一人称が「僕」になってないか……?


「でも柏木さんが傷つくわけじゃ」

「傷つくよ」


「……っ」

「傷つくし、腹だって立つ」


 柏木さんは心底悔しそうな表情を浮かべる。わなわなと揺れる肩が、心情を物語っていた。


「嫌なんだよ。カスミが悪く言われるのは。……カスミが馬鹿にされてるの見ると耐えられない。自分のことみたいに腹が立つんだ」

「……」


 まただ。また俺は、親友に。柏木さんに――蕎麦に悔しい思いをさせてしまった。


「隠さないでいいから。僕は君の相棒、だからさ。困った時はお互い様、でしょ?」


 スカートを握っていた手を、緩め。不意に、左手で握り拳を作り。


「頼ってよ。僕のこと」


 拳を突き出してくる。


「……悪かった」


 俺は右手で握り拳を作り、柏木さんと――――拳を突き合わせた。


「……っ」


 その手は、ロングソードを持ち上げられるような傷だらけの筋骨隆々な男のそれではなく。くすみ一つない、柔らかな女の子の手であった。



 ◆◇◆



 向かいの席、辺の横に居る山崎が目を輝かせながら訊いてくる。


「どーだった? あおりん! ゆっきーと勉強会、楽しかった?」

「うん! 凄く楽しかったよ。勉強してたら夕飯の時間になってね、カスミに夕飯もご馳走したんだ! お母さん、凄く喜んでたよ」

「え~! あおりんママの料理、あたしも食べてみたいな」


「千乃ちゃんなら大歓迎だよ」

「そう? じゃあ今度、暇なときにお邪魔していいかな?」

「うん!」


 盛り上がってるなぁ、女子トーク……。なんて思いながら黙々と飯を食らっていると。不意に、隣にいる柏木さんに名前を呼ばれる。


「カスミ」

「ん。どうした」


 柏木さんは弁当をコトンと置き。満面の笑みで。


「今日もする? 勉強会!」


 食堂内に、そんな声が響く。

 大勢の生徒がこちらを振り向き、その一部の視線にはずもももと怨嗟を……。


VCボイスチャットでな」

「えー」


 流石に二日連続で柏木家にお邪魔する訳にはいかない。それに今日は柏木さんのお母さん――穂乃香さんは遅くまで家に居ないだろう。

 ……待てよ。それなら俺の家――は無理だ。絶対無理だ。ついさっきまで空き巣に入られてましたって感じの、目も当てられない部屋なのだ。


 昨日一応掃除はしたつもりだが……俺基準でそう判断するのは良くない。汚部屋が汚部屋の一歩手前に変わっただけだ。

 そんなことを考えながら、頭を抱えていると。


「冬城。柏木さんのお母さんはどんな感じだったんだ?」


 ふと。辺にそう訊かれる。俺は少し考えて。


「銀色、だったな」

「……どゆこと?」


 ◇◇◇ ◇◇◇


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【追記】


 ついに棘姫いばらひめ、三十話を突破してしまいました。僕はこう見えても三日坊主なので、ここまで自分の作品を書き続けられるなんて思っていませんでした……。人間、案外熱中すると書けるもんなんですね。この回は二時間で仕上げました。


 それはそれとして。最近、セミの鳴き声が五月蠅いですね。夏が来たって感じがします。こんな日はエモい曲を聞きながら執筆したいもんですが、僕は音楽が流れてると鬱陶しくて集中できません(笑)これって僕だけなんでしょうか。

 余談ですが、VCボイスチャットで雑談をしながら執筆する作家さんも居るらしいですね。いやほんとに。尊敬に値しますよ。


 僕がVCボイスチャットしながら執筆なんてしようものなら、途中から会話内容の文字起こしに変わっちゃいますからね。まあ、文字数稼ぎはこんなもので。


 最後に。

 切実に★がほしいです。面白いと思っていただければ、★★★お願いします。

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