第28話 まごうことなきJKの部屋
スリッパを取りに行っていたであろう柏木さんのお母さんは、手ぶらで玄関に戻ってくる。
「ごめんなさいね。私ったら、葵が久々にお客を連れて来たものだから舞い上がっちゃって。私、葵の母の柏木
そう言って、穂乃香さんは俺に微笑みかける。
「よ、よろしくお願いします」
そこで。俺の頭に、ある疑問点が浮かんだ。容姿とのギャップである。
「……お名前、日本語なんですね」
「ふふ。やっぱり、初対面の人にはそう言われちゃうわよね」
「あ、なんかすみません」
「別にいいのよ。ええとね、私の名前が穂乃香なのは――――」
そこで。柏木さんが話し始めようとする穂乃香さんを制止する。
「ごめんね、カスミ。お母さん、話し始めると長いんだ」
「ちょっと、葵」
「さ、立ち話もなんだからさ。この階段を上がったら私の部屋だから、付いて来て」
柏木さんはどたどたと階段を駆け上がって行ってしまった。
「もう、あの子ったら……ごめんなさいね、カスミ君。突然のお客なものだから、お茶もお菓子も用意出来なくて」
「あぁ、いえ。お気になさらず」
「あ、そうだ。あの子、学校だとどんな感じなのかしら? お友達は居る?」
辺と山崎の顔が浮かぶ。
「あ、はい。俺と……あと二人ほど――」
「――そんなに居るのね! それなら安心だわ~」
穂乃香さんはパンッと手を叩き、満面の笑みになる。
そんなに……とは少し大げさな気がするが。
「ありがとうね、カスミ君。葵と友達になってくれて」
「お礼なんて……俺は別に何もしてません」
「ううん。あの子が人前であんな表情するなんて、今まで全然無かったのよ。私、さっき本当にびっくりしちゃったもの」
そう言うと、穂乃香さんは目を伏せる。
「ずっと心配だったの。無理にお友達を作りなさいとは言えないけれど、それでも心細さは感じるはずだから。今日カスミ君がうちに来て、安心したわ。ありがとう」
「……はい」
こんなに真剣に「ありがとう」と言われるのは久しぶりだ。何だか照れる。
「――あ! ごめんなさいね、玄関先で引き留めちゃって。私ったら、つい夢中で。ほら、そこの階段を上がって右が葵の部屋だから」
「あ、はい。ありがとうございます。お邪魔します」
手すりに手を置きながら階段を上がっていく。踊り場に達したところで。
不意に名前を呼ばれた。
「カスミ君」
「……?」
振り返る。銀色の瞳と目が合う。
「葵のこと、よろしくね」
「――はい」
俺はニッコリと、そう答えるのだった。
◆◇◆
階段を上がり、右……ここか。
扉に掛けられたプレートに「aoi」と書かれている。柏木さんの部屋だ。
「……ごくり」
ここに来て緊張し始めた。女の子の部屋に入るのなんてこれが初めて――――いやいや。惑わされてはいけない。この扉の装飾とほのかに香ってくるフローラルかつ石鹸のような香りに。ここは俺の親友の部屋だ。Sob_A221の部屋なのだ。落ち着け、俺。何も恐れることはない。未知との遭遇とか何とか、今は考えなくていい。
よし。深呼吸だ。
「すぅ――」
ガチャッ
いきなりドアが開き。
「――カスミ?」
「のわっ!?」
「なんだ、そこに居たんだ。全然来ないから何してるのかと思って。ほら、早く」
「あ、ああ。お邪魔しま――」
柏木さんに促されるまま、部屋の中に入り――。
「……」
部屋の中は、整然としていた。
壁に掛けられたいかにもらしいお洒落な絵。油絵だろうか、一輪のひまわりが描かれている。部屋の隅には藤色のベッド。その上には、熊のぬいぐるみ。同じく隅に置かれたチェストには、これまたお洒落なテーブルライト。全て、藤色やライトパープルで統一されている。まごうことなき、JKの部屋だ。
その空気に俺はくらくらしそうになるも――俺はある物に気が付いた。
――真っ白いデスクの上に、デスクトップパソコン。
「あ……」
「あ、これ。私がいつも使ってるパソコン」
「随分型落ちしてるな。いつのだ、これ……六、七年くらい前か?」
「……ああ。それ、ね。買い替えるのも忍びないから、ずっと使ってるんだ」
柏木さんはそう言って、パソコン本体を撫でる。埃一つないあたり、よく手入れされているのだろう。
「そうなのか」
「うん――――ほら、こっちにテーブル広げるから、カスミも手伝って」
「あ、ああ」
◇◇◇ ◇◇◇
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【追記】
短くなってしまいました。その代わり、明日も投稿するつもりです。
切実に★がほしいです。面白いと思っていただければ、★★★お願いします。
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