第27話 これは耐えられそうにない


「落ち着いたか?」

「ああ。取り乱して悪かったぜ」

「れーくん……あたし、惚れ直したよ……!」

「何と言うか、本当に……仲が良いんだね」


 柏木さん。素直にと言ってやってもいいんだぞ、そこは。

 いちゃいちゃする二人を横目に箸を進める。


「――そう言えば、そろそろ期末考査だな」

「うっ……食事中にその話するか? 冬城」

「別にいーだろ」


「あ! 今気になったんだけど。ゆっきー達は普段テスト勉強って何してるの? ほら、ゆっきーはこの前の順位表載ってたし、あおりんに至っては一位だから」

「あぁ、確かに気になるぜ。なんか秘訣とかあるのか?」


 俺は柏木さんと顔を見合わせる。


「この前……ってか、ずっと前から一緒にテスト勉強してるぞ、俺達」

「うん。通話繋いで毎日四時間くらいやってるよね」


 それを聞いた辺と山崎は一瞬真顔になったかと思えば――ひそひそと話し始めた。


『ええ……それってもうカップルのそれじゃん』

『ああ。間違いないぜ』

『勉強会でも誘おうと思ったけど……邪魔しちゃ悪いよね、これは』


「何コソコソ話してるんだ」

「あ、ああ、別に何でも無いんだがな。気にするようなことは何も」

「そうだよ。あたし達はただ、カップルみた――むぐっ」


 辺がガッと山崎の口をふさぐ。


「こいつの言うことは気にしないでくれ」

「ぶはっ。何するの、れーくん!」

「ほら、飯が冷めちまうからな。さっさと食っちまおうぜ」


 そう言って辺は弁当をかき込む。


「変な奴ら……」

「あ、そうだ。カスミ、今日の放課後は何か用事あったりする?」

「今日は特に……てか、大体用事は無いけど」


 俺のその言葉を聞いて、安堵の表情を浮かべる柏木さん。


「そっか、よかった。じゃあさ……今日、勉強会しない?」

「勉強会? いつもやってるだろ」

「いや、そうじゃなくて」


 柏木さんは赤紫色マゼンタの瞳を歪め。微笑みながら言い放った。


「――しようよ、勉強会。リアルで」


 ◆◇◆


「はっ?」

「千乃ちゃん達も一緒にどうかな? 勉強会! きっと楽しいと思うんだ」

「いや、あたしはパスかなぁ」

「あ、ああ。チョット今日は用事があってなー。俺もパスだぜ」


 こ、こいつら……。


「そっか。じゃあカスミ、二人でやろっか」

「いや、俺はまだ何も――」

「せっかくリアルで知り合えたんだから、良いじゃん別に」


 男女が二人で勉強会なんて、そんなハレンチな話があるのか。いや、この際ハレンチかどうかはさておき。

 通話で事足りるものをわざわざリアルでやろうとする意味が分からない。


「で、でも」

「そうだぜ冬城。学年一位が直々に教えてくれるってんだからな」

「そうそう! 学年一位が直々に教えてくれるんだから!」


 山崎、辺と同じことを言うんじゃない。


「やろうよ、カスミ。それとも……私と勉強会するの、嫌?」


 柏木さんは少し寂しげな表情で訊いてくる。その表情は反則だろ……。


「……嫌じゃ、ないけど」

「じゃあ決定!」


 満面の笑みの柏木さん。結局押し負けてしまった。


「えっと……勉強会ってどこでやるんだっけ」


 思わずずっこけそうになる。


「あー……カラオケとか、カフェとか?」

「うーん。カラオケはこの前行ったし……カフェは柄じゃないしなぁ」

「お互いの家でやれば良いんじゃないか?」


 そう提案する辺。


「確かに、自分の家だと色々融通が利――――え、は?」

「じゃあ家で決まりだね!」

「いや、ちょっと待て」

「ん?」


「融通が利くとは言ったけど。さすがにその、男女でお互いの家って言うのはどうなんだ。ほら、俺は一人暮らしだし。柏木さんのお母さんもこの時間帯は――」

「今日は居るよ?」

「――――っ」


 無垢な瞳でそう返す柏木さん。うわぁ、これめちゃくちゃ恥ずかしい。柏木さんと目を合わせられなくなり逸らすと、大勢の生徒と目が合い――。


「……分かった。じゃあ放課後、柏木さんの家でしよう」

「うん! 校門で待ってるね――って、どこ行くの、カスミ」

「眠たくなったから教室に戻る」

「えぇ、せっかく四人で集まったのに。何か話そうよ。まだ二十分もあるんだよ?」


「悪い。午後の授業で寝るわけにはいかないからな」

「えぇー」


 空になったトレーを返却口に返す。


「これは耐えられそうにない」


 そう一言呟いて。俺は足早に食堂を後にした。



 ◆◇◆



 放課後。

 昇降口を出た俺は、校門の前に佇む銀髪の少女を見つける。柏木さんは俺に気が付くと嬉しそうな表情になり。


「あ、やっと来た」

「悪い。少し掃除が長引いたんだ」

「そっか」


 柏木さんの隣に立ち、歩き出す。


「そう言えば、カスミは知ってるよね。私の家」

「ああ。相合傘した日にチラっと見たな。外が暗くて外観はよく覚えてないけど」


 二十分ほど歩き、柏木さんの家に到着。

 外観は切妻屋根の洋モダンで、クリーム色の壁が清廉な印象を与えるものだった。


「ここが柏木さんの家か。なんか……洋風、だな」


 あまり住宅に詳しくないせいで、そんな感想しか湧いてこない。


「お父さんが建てた家なんだ。さ、入って」


 柏木さんはガチャリとドアを開け――。


「ただいまー」

「お、お邪魔します」


 その数秒後。廊下の右側にあるであろうリビングから、一人の女性が現れた。しなやかな銀髪に、すらりと高い背。柏木さんとそっくりだ。

 だが違う点があるとすれば――柔和な雰囲気だろうか。常に柔らかい表情を浮かべ、安心感を与える出で立ちをしている。そして、その瞳は銀色シルバーだった。


(目の色が違う……)


「おかえりなさい、葵。あら、そちらは?」


 柏木さんにそっくりのその女性は俺の方を見。慌てて自己紹介をする。


「冬城佳純です。柏木さんの友人です」

「あらあらお友達? まぁ、葵もようやく友達を作る気になったのねぇ。ええと、スリッパはどこだったかしら」

「別にいいって。そのまま上がっていいよ、カスミ」

「あ、ああ。お邪魔、します」


 靴を脱ぎ、揃え。玄関に上がった。


 ◇◇◇ ◇◇◇


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【追記】


 僕の小説は基本的にのんびり、の~んびり進んでいきます。劇的な展開はあんまりありません。ちなみに佳純君の好物は親子丼です。

 切実に★がほしいです。面白いと思っていただければ、★★★お願いします。

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