第2話 冬城佳純の日常 ①
月曜の朝。
「ふわぁあ……」
月曜日は憂鬱だ。夜遅くまでゲームをして睡眠を疎かにしたせいか、眠気も凄い。 肘を付きながら、睡魔と静かに格闘していると、不意に誰かに肩を叩かれた。
「よっ、
「
目の前に居るこのイケメンは
辺は俺の机の前に立ち、机の両角に両手を置く。
「なんか顔色悪いな、お前。まさか、昨日もゲーム三昧だったのか?」
「まあな。ちょっと眠りが浅かったかも。三時間くらいぶっ続けでやってたから」
辺はため息を一つ吐き、
「あんまり画面ばっか見てると、目が腐っちまうらしいぜ? 何とかライトっての」
「そんなわけないだろ。んで、ブルーライトな」
「たはは、そうだったそうだった。目悪くするから、ほどほどにしとけよ」
たまに馬鹿なことをほざくが、根は良い奴である。
「あ――そうそう。めっちゃ話変わるんだがな、
「柏木さんって、隣のクラスの?」
「そそ」
辺が言っている柏木さんというのは、隣のクラスの「
何にせよ、この学校で一番可愛いと評判の生徒である。
俺は彼女のことはよく知らないが、実際のところかなりモテているようだ。辺が言うには、入学してからの一ヵ月半の間に既に二十回以上も告白されているらしい。
「有象無象から告られるだけなら俺もスルーしてたんだがな。聞いて驚け。その告ってた人ってのがな、バスケ部のエースの
「へえ、鷹合先輩が。珍しいな。それで、結局二人は付き合ったのか?」
「それがな……。柏木さん、その鷹合先輩のこと振ったんだとよ!」
「ふーん。なんか意外だな」
「だろ? 成績優秀、運動神経抜群な鷹合先輩がフラれるなんて、誰も予想してなかったっつーか。あの先輩、女子からの人気も凄いし。振った方の柏木さんも
「まあなぁ。あんなハイスペック男子、なかなか居ないもんな」
柏木葵。容姿端麗で成績優秀。男子は勿論、女子からの人気も高い。
彼女に告白をした男子生徒は、ことごとく玉砕していく。その様を、触れるとケガをする「薔薇の
方や、二つ学年が上の「
「そういや。昨日妹に良い男紹介してくれーって頼まれてな。冬城のこと、紹介してみようと思ってな。それでなんだが、冬城って、恋愛に興味あるか?」
そんな彼の告白をも断った「棘姫」。
「まあ、万に一つ上手くいって、お前が俺の妹と結婚するって話にでもなったら、そんときは俺が戸籍上お前の兄貴ってことになるけどな。って、おい。聞いてるか?」
「――ああ。すまん。ちょっと考え事してた」
「そっか。なあ、冬城。もっかい聞くが、お前、恋愛に興味あるか? さすがに妹とくっつけるなんてのは冗談だけどな。友人として、心配してるだけだ」
教科書をカバンから取り出し、トンと机に置いて端を揃える。
「はぁ。そういう時期もあったな」
「なんだよそれ。この貴重な高校時代を恋愛せずに過ごすなんて、もったいねえなって思うぜ、俺は。だいたいお前、素材は悪くないんだから――」
いそいそと、教科書を机に仕舞っていく。
ああ、面倒くさい話題だ。そうだ。反対に俺から振ってみるか。
「そういう辺はどうなんだ。彼女とは上手くいってるのか?」
辺には彼女が居る。名前は「
山崎の第一印象は、天真爛漫。何も考えていなさそう……だが、性格は良いのだ。
「ああ、絶好調だぜ。この前、誕生日にアクセ贈ったらすげー喜んでたしな。あ、そういや。悪いが俺、今日は一緒に帰れないかも。千乃と放課後デートあるから」
辺はここぞとばかりに
「そうか、楽しんで来いよ」
と、その瞬間にチャイムが鳴る。
先生が教室に入って来て、声を張り上げた。
「ホームルーム始めるぞー。お前ら、座れー」
「おう。冬城もそろそろ考え始めた方が良いぜ。恋愛してこその高校時代だろ?」
辺はそう言って、手をひらひらとさせながら自分の席に戻っていった。
だが、俺の方針は揺らがなかった。
我が青春は、恋愛にあらず。
ゲームをする、ただそれだけだ。べ、別に恋愛が嫌いとか、そういう訳では無いが。俺は、蕎麦とゲームをやって、楽しく高校生活を過ごせたらそれで良い。
……あれ。
もし、蕎麦に彼女が出来たら……?
先ほど
『ごめんね。僕、今日は一緒にゲームできない。彼女と放課後デートあるんだ~』
……いやいや、ないない。あの蕎麦が、彼女なんて作るわけがない。
というか、人間不信気味だからな、あいつは。
俺と一緒で、あんまり恋愛とか色恋沙汰に興味はなさそうだ。
そんなことをぼーっと考えていたら、ホームルームは終わった。
◇◇◇ ◇◇◇
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