第14話 愛に溺れる
「ふぁーあ」
俺はスマホを手にしたまま大きく欠伸をした。眠気が酷くてこれ以上ゲームをする力も残っていなかった。
「これから面白いところなのにな…」
文句を言っていても仕方がない。とにかく今日はもう寝よう。部屋の電気を消すことすらしないで俺の意識はそこで途絶えた。
翌朝、眠い目を擦りながらSNSを開く。その瞬間、俺の眠気は一瞬で吹き飛んでしまった。何故ならば、沙友理と彩夏、小花と紗枝、春夏からとんでもない量のメッセージが届いていたから。
沙友理と彩夏、春夏からはトーク画面を埋め尽くす程のメールが届いていた。
小花からは「優吾くん好き」というようなメールが大量に。紗枝からは原稿用紙数枚分にも及ぶ長さのメールが届いていた。
「おい嘘だろ…。」
正直、見なかったことにしたかった。けれどメールを見た以上、既読が付いてしまっている。
俺は諦めて返信することにした。やはりあっという間に付く既読。返事を待つこともなく俺は冷蔵庫を開けてお母さんが作り置きしてくれた朝ごはんを取り出して電子レンジで温める。
今日はグループ学習も多いから紗枝と小花と話す機会もあるだろう。それに春夏とも帰りが一緒になるし、彩夏とは昼休みに話す機会がある。沙友理ともまた話す時間がある。
全員としっかり話をしよう。そうすればみんないつもの様子に戻ってくれるに違いない。この時の俺は呑気に考えていた。
「おはよう」
俺は恐る恐る紗枝と小花に声を掛ける。すると2人は笑顔で俺の方を振り返りながら「おはよう」と返してくれた。
ふと、教室の入り口の方から強烈な視線を感じて振り返ってみると、彩夏が物凄い視線でこちらの方を見つめていた。
その視線は俺の方よりも小花と紗枝に注がれている気がする。
「彩夏じゃないか。どうしたんだ?」
俺が声を掛けると彩夏は無表情で言った。
「優吾さん、なんですぐに返事をくれなかったのですか?」
俺はついびっくりして飛び上がりそうになる。
「悪い。ちょっと忙しくて…。」
必死に波を立てないような言い訳を考えるが単純なものしか思い浮かばない。
「彩夏も俺と連絡が取れない時は他の人と話すとかした方がいいんじゃないのか?」
俺がそう提案すると彩夏は静かに首を振る。
「言いましたよね?私は優吾さん以外の人には興味が無いと。」
「私が愛しているのは優吾さんだけです。だからあなた以外と話をしてもなんの意味もありません。」
彩夏の言葉に俺は何て返せばいいのか分からずに固まってしまう。
「優吾さん、あなたは私のことを一番に愛していますよね?」
彩夏が無表情のままそんなことを口走る。もちろん彩夏のことも小花なことも、春夏、沙友理、紗枝のことも好きだ。けれどそれは友達としての意味なんだ。まだ「異性として好き」だとか「愛してる」だとかの感情は無い。
俺がどうすれば良いのか迷っていると小花が彩夏の元にやって来て何やら耳打ちをした。
一瞬彩夏は驚いたような表情をした。それから彼女は小花を鋭く睨み付ける。けれど当の小花は余裕そうな表情をしていた。
「そろそろ始まるから席に座ろう?」
小花がそう言って俺の手を引く。相変わらず背後からは凄まじい視線が降り注いでいた。
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