第10話 微かな恐怖

 今日が午前授業だけで本当に助かったと思った。昨日なんかは模試に小テスト。せめて半日くらい休みがないと身が持たない。

「優吾くん、これからもよろしくね。」

 帰り際、紗枝が俺の顔を見て微笑んでいた。

「こちらこそよろしくな。」

 紗枝にそう言い残して俺は教室を出た。


 自宅からの最寄り駅で親からの迎えを待ちながらSNSを見ていると紗枝の投稿が目に入る。


「やっとあの人の隣になることが出来た。」

「あの人は神様が出会わせてくれた運命の人なんだ」

 紗枝の言うあの人は俺しか居ない。京平の言っていた「ヤンデレに好かれたら逃げようがない」という言葉が再び脳裏を過ぎる。

 ヤンデレなんて漫画やアニメ、小説だけの存在に違いない。春夏も彩夏も紗枝も沙友理もみんな普通の女の子だ。俺は必死に自分にそう言い聞かせた。


「優吾さん、さっきから誰の投稿を見ているのですか?」

 聞き慣れた声がすぐ近くで聞こえ、思わず飛び上がりそうになる。

「さ、彩夏!?お前、この方面じゃなかったはずだろう!?」

 確か彩夏が住んでいる場所は俺が住んでいる場所とは逆方向だったはずだ。

「優吾さんのことが気になって付いてきてしまいました。」

 彩夏は悪びれもせずに言った。

「優吾さん、私は優吾さんの全てを知りたいんです。優吾さんの両親も知らないような姿も。全てを把握したいです。」

 彩夏の目からは光が消えていた。彼女は光を失った瞳で俺のことを真っ直ぐ見つめている。

「だから今は沙友理と春夏と小花と紗枝の4人を監視しています。あの4人なら優吾さんに危害を加えかねませんからね。」

 彩夏の言葉に思わず身震いをしそうになった。

「ちょっと待てよ。あの4人は俺の友達だ。だから危害なんて加えるわけがないだろう!?」

 俺は必死に彩夏を説得した。けれど彼女には効果が無かったみたいだ。


「私は優吾さんのことを愛しています。部活が同じになった日から。だから私は優吾さんの全てを知りたい。それに、優吾さんの為ならば何だって出来ますからね。」

 間違いない。彩夏は本気だ。

「優吾さんに仇を成す者は全員纏めて潰します。それに、私は1番優吾さんのことを愛しています。優吾さん以外の人なんてただの他人ですから。私は優吾さんだけが生きていればそれだけで良いです。他の人なんてどうでもいい存在ですからね。」

 彩夏の言葉に思わずその場から逃げ出したくなってしまう。出会った時は繊細で愛らしかった彼女。けれど、今の彩夏は俺にとっては恐怖の対象でしかなかった。



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