第5話 愛してる
やっぱり優吾さんはかっこいいな…。私、彩夏は3年生の教室へと戻って行く彼の後ろ姿を眺めて居た。
困っている人は放っておけないような優しい人柄に常に落ち着いた態度。それに、容姿だってかっこいい部類だ。こんなに素晴らしい人は人生で初めてだ。
優吾さんが、私のモノになればいいのに…。ふとそんなことを思ってしまった。私なんかにこんなにも優しくしてくれる人なんて彼しか居ない。つまり、私には彼しか居ない。
思い返せば、出会った時から彼のことが好きだったのだろう。
今から1年前、帰宅部だった私は親からの勧めで軽音楽部に入部した。弦楽器に少し興味があったので、ベースをやってみることにした。けれど、初心者には結構難しく、何度も挫けそうになってしまう。そんな私に手を差し伸べてくれたのが優吾さんだったのだ。
「大丈夫か?」
彼がどうしたらいいのか分からずにいる私に声を掛けてくれる。
そう、これが私と彼との初めての会話であり、私の人生が変わった瞬間だった。
「弦楽器って結構難しいもんな。一緒に練習しようか。」
そう言って彼は私の隣に座ってくれる。ふと彼の指が私の指に触れた。微かな温もりが指先を伝って全身に流れ込むかのような感覚に襲われる。ただ、こうしているだけでも私は幸せだった。
ある日、私は重い足取りで部室へと向かっていた。いつもは部活の時間が楽しみで仕方ないのに、今日だけは憂鬱な気分だ。
何故ならば、仲良しだと思っていた女子から
「彩夏、ハッキリ言ってあんたは重すぎる。だから距離を置かせてほしい。」
と言われたから。こんなにも落ち込んだ顔を愛おしい優吾さんにはとても見せられない。
顔を見られないように俯きながら部室に入ると
「あれ?いつもと違って元気がないけれどどうしたんだ?」
優吾さんが私の顔を覗き込みながら声を掛けてくれた。
「何の力にもなれないかもしれないけど、話くらいなら聞くよ?」
彼の声はいつもよりも優しくて、思わず泣き出してしまいそうになる。
「はい…」
私は彼に今日の出来事を話した。彼は、嫌な顔もしないで、私の話を時折頷きながら聞いている。
「辛かったな。けれど、俺は彩夏が優しくて友達想いな人だって分かってるよ。」
優吾さんが優しく微笑む。その顔は私にはあまりにも、眩し過ぎた。
優吾さん…私はあなたを心の底から愛しています。誰よりも大好きです。
「優吾さん…私はあなたに出会ってから人生が変わりました…。」
気付けば、私は虚空に向かって呟いていた。けれど、私の呟きなんて誰も聞いていないに違いない。いや、仮に聞かれたって構わない。誰に何を思われたって構わない。私は優吾さん…あなただけが居てくれたら他は何も要らないから。
「優吾さん…だから私、優吾さんのことをもっと知りたいです。優吾さんの両親だって知らないようなことも…あなたの全てを知りたいです…。」
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