第6話 大好き
地獄のような校内模試も終わって俺たちにやっと平穏な日々が戻ってきた。
校門を出てからスマホを開いてみると、画面にはメールの通知が表示されていた。沙友理からだ。
「ゆうくん、いっぱい好きだよ」
赤いハートで彩られた文面から彼女の真っ直ぐな感情が伝わってくる。最近、やけに沙友理が積極的だ。 俺が既読を付けたことが沙友理に分かったのだろう。彼女から新たにメールが届いた。
「私ね、ゆうくんの為ならなんだってするよ?ゆうくんからの頼みなら絶対に断らないから」
俺は、このメールにどうやって返事をすれば良いのか分からなかった。
初めて出会った頃の沙友理は礼儀正しくて、けれど自分の意見をハッキリ言う人だった。
「ありがとう!けれど悪いから遠慮しておくよ」
精一杯考えてから沙友理に返事を出す。彼女と友達になれただけで充分だ。それに、俺には沙友理にあれこれ頼む気にはなれなかった。
「遠慮がちなゆうくんも可愛いな〜ますます尽くしたくなっちゃう」
沙友理…一体どうしちゃったんだ…。
「私ね、今まで出会った人の中でゆうくんが一番いい人だと思うんだ。」
「ゆうくんと将来色んなことをしたいな〜って思ってるよ」
「だからこれからもゆうくんと色んなお話をしたいな」
「私とゆうくんは本当に気が合うよね」
「ゆうくんって本当に優しいよね。私ゆうくんに出会えて本当に良かったと思ってる。」
既読を付ければ付けるほどに沙友理からメールが届きまくる。俺はどうしたらいいのか分からずにスマホを手にしたまま固まってしまう。
「ありがとう。俺も沙友理と仲良くなれて嬉しいよ。」
数分考えてから返事をすると、案の定一瞬で既読が付いた。
「私ね、ゆうくんからどう思われているか不安だったんだ。けれど、いつも色んなお話をしてくれるし、私の話も聞いてくれるから嬉しかった。」
「ゆうくんと出会ってから人生が変わり始めたんだ。だから私はゆうくんに何でもしたい。ゆうくんになら、なんだって出来るよ。」
止まることのない沙友理からのメール。本当にどうしてしまったのだろうか?
「気持ちだけで充分嬉しいよ。」
俺はそう返すと一旦スマホの電源を切った。連日の疲れのため、眠気が限界だったからだ。
俺は、電車の1人席に座ると、そのまま意識を失うかのように眠りについた。
目が覚めたのは、いつも降りている駅の一つ前の駅だった。目覚めるのがもう少し遅れていたらきっと乗り過ごしていたに違いない。俺はスマホの電源を付けた。
「うわっ…!」
電源を付けた瞬間、俺は思わず驚いてしまう。何故ならば、トーク画面いっぱいに沙友理からメールが届いていたからだ。
「ゆうくんと一緒に色んな場所に行きたいな」
「ゆうくん、好きだよ」
「だからいつでも私を頼ってね」
「欲しいものなら何でも買うよ」
「私、ゆうくんに尽くしたい」
「ねえ、私に何か出来ることないかな?」
「だからゆうくんも私に甘えてきていいんだよ?」
起きたばかりでまだ頭が冴えていないから帰宅して課題をやりながら返事を考えよう。
俺は呑気にそんなことを思いながらスマホを制服のポケットへと仕舞い込んだ。
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