第四十四話 その後

 ようやく、2人の結婚式も終わり、言辞ゲンジが始めた小説も第4巻が出版された。

 そこには、異世界の小説家と出会った元暗殺者のヒロインが、幸せな結婚式を挙げるシーンで終わりとなっていた。

 ホッとしている異世界・大小説家の言辞ゲンジ先生。

 

 次は、何を書くのだろう?

 全力を出し切って少し放心状態のところもある。

 だが旦那様。

 それでは困るのだが。

 早く次を、書いてよね。


 私は、フェイスに相談していたことの許可が下り、ガルドら特殊守備隊の新人達のコーチ役をすることになった。

 格闘技術や剣技などを教えることになるらしい。

 新人と言っても、皆、私よりは年上ばかりだ。

 

(私のは暗殺剣なんだけどなぁ。良いのかなぁ?)

 

 皇国の格闘術や剣技は、おいおい覚えることにしよう。

 基本的なことは、前にガルドのを見たので大体わかる。

 だから、新人程度には十分だろう。

 しかし、訓練が終わる頃には、各部隊から抜擢されてきた新人達が、皆倒れているのだ。

 

(おかしいなぁ。まだ、基本も教えていないのに)


 ガルドは、苦笑いしながら、お前に任せると言ってくれた。

 皇国に来た11人の私の元仲間達に匹敵するのが、カルドの部下では、あの2人だけなので人数を増やしたいと言っている。

 あの2人とは、帝国で親方様と対峙した若い守備隊兵の事だ。

 ガルドも、親方様には、皇国に残ってもらいたかっただろう。

 ガルドが説得すれば、もしかしたら、親方様も残って下さったかもしれない。


(けど、親方様も、頑固だからな。それでも、去っていっただろうな)

 変わりと言っては変だが、数十名の子達は皇国に残る事を選択した。


 フェイスこと、サーフェイス・ウヒジニ・バルデマー皇太子殿下は、目出度く結婚をした。

 ローズ・ウラニア・ヒルデガルドは、皇太子妃となり、ローズ・ウラニア・バルデマー皇太子妃となったのだ。

 

 その式の内容は、当然ながら、私達よりも盛大なものだった。

 私は、小説も終わったから暇だろうと式に向けてローズの身支度などの手伝い、使いぱっしりもやらされた。

 

 他には、同年代の貴族の御令嬢向けに、ローズがデザインした新作ドレスのモデルもやらされている。

 私が不機嫌になった衣装ほど、お嬢様方の受けが良いらしく、ローズには助かると言われている。

 

 非常に不本意なのだ。

 

 帝国で起きた転移魔法の軍事利用は、国際間で取り扱いを相互に監視する条約を締結することになった。

 容易に使うことがないように取り決められたという。

 

「形だけさ。でも、何もないよりは、マシだろう」

 

 と、フェイスは言った。

 国力のある国が、養成した魔導士に密かにやらせる可能性は防ぎきれない。

 しかし、明るみに出れば帝国のように世界中から強く干渉され、中止を勧告されるようにはなったのだ。

 

 シャトレーヌは支店長となり、新しい店で頑張っているらしい。

 もう屋敷には一緒に住んでいない。

 

 メイはあの後、親や親せき友達からも、私に合わせろと、うるさく付きまとわれていると言っていた。

 それと、私の旦那様がメイのことを本に書いてしまった。

 だから、あの店の女の子は、お前だろうと特定されそうになっているらしい。

 

(そういえば、メイの許可取れなかったことを、言辞ゲンジには、まだ言ってないな。放心状態で、ボーとしているので、ちょうど良い。メイの店に連れて行ってやろうか)

 

 私が店に寄ると、怪しそうな奴らは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 それはそれで、少し傷つくのだが。


 

 旦那様の様子では、その後の後日談は本にしなさそうだな。

 

 まあ、盛り上がらないし。

 そんなに書くこともないし。

 書いても売れないだろし。


 書斎にある机の上の棚には、あの『青いガラスのペン』がキラキラ青く輝いている。

 

 私の剣をしまったケースも、そこにある。

 

 そのそばの箱には12枚の仮面。

 

 これが、私達2人の全財産で大事な宝物になった。


 これだけは、私達以外に欲しがる人などいないだろうから。

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女暗殺者リリィと異世界から転移した小説家との恋の物語 日向 たかのり @bisei

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