第四十三話 異世界人との結婚式

 メイドと使用人さんが扉を開けると、式場内部が、パッと目の前に広がった。

 その時から、頭の中が真っ白になり、全部覚えていない。


 ドアの外には、フェイスとローズが、待っていた。

 私達は、メイドと使用人さんに手を引かれ、フェイスとローズに引き渡される。

 フェイスが私の左手に立ち。ローズが、言辞ゲンジの右手に立つ。

 

 私達を先導するように、前を歩く。

 私達は、その後を二人でついていく。

 この形は、ローズが考えたらしい。


 私達二人には、どちらも血を分けた身内がいない。

 友達も、知人も、二人が皇国に来てからだ。

 実際に、フェイスとローズの二人が、ずっと私達を見守ってくれていた。


 兄や姉のように。


 ローズを見ると、少し緊張しているようだった。

 どうしてだろう?

 そういえば、会場の人数が、聞いていた人数よりも多い。

 右手の方には、見知らぬ人達が座っている。

 言辞ゲンジが、その人達に軽く挨拶をしている。

 その人の手が見えた。

 その手の感じからすると、職人か?

 もしかしたら、帝国から亡命してきた、あの出版商会の人達かもしれないな。

 私達は、そのまま前に進んで行く。


 左手には、明らかに周りとは違い、とても品の良さそうな集団がいた。

 特に、ある二人の顔は、なんだかフェイスに似ている気もする。

 何故か、カチコチになりながら、ペコリと頭を下げるローズ。

(なぜ、ローズが頭を下げる?)


 壁の方には、ガルドの他に知らない警護兵がいた。

 ガルドよりも上の位の感じがする。


(もしかして、皇帝様と皇妃様?)

(ローズは、それで忙しかったのか? さぞや、大変だったろうに)

 私と視線が合うと、ニコリと笑顔を返してくれた。


 ちょっと前までは、ただの暗殺者だった私が、一国の皇帝様と皇妃様に、ニコリと挨拶をしてもらえることになるなんて。


 その前には、シャトレーヌとメイ。

 メイは、めちゃめちゃ緊張して座っている。

 それは、そうだろう。

 後ろには、自分の国の皇帝様と皇妃様、その付き添いの方々。

 貴族も中にはいるかもしれない。

 1人の町娘が、その方々よりも、前に座らされているのだから。

 シャトレーヌは、いつものように優しい笑顔で、私達の行進を見つめている。

 

 そんな余計なことを考えながら、1段高くなった舞台に言辞ゲンジと2人で上がった。

 フェイスとローズは、私達が上がった後、少し離れた位置に移動した。


 特に、祭壇などは、用意しなかった。


 国どころか、別次元の人間同士が、一緒になるのだ。

 2つの世界を両方をつかさどる神の存在を、誰も知らなかったからだ。


 だから、私達は、この世界の。

 言辞ゲンジに取っては異世界の人々の前で、宣言するような形にしようとなった。

 二人は手をつなぎ、お互いが向き合う。

 

 そして、誓いのキスをした。

 

 会場からは、祝福の声と拍手が鳴りやまなかった。

 少しそのままでいた後、2人は会場に向き直す。

 

 その後、会場のみんなに向かって深くお辞儀をした。

 

 言辞ゲンジの書いた小説から、この物語が始まったのだ。

 そして、この国や帝国だけでなく、世界中の人達が関心を持ってくれたからこそ、2人が一緒になれたのだ。


 しかし、私達にとっては、世界の脅威の排除は、そのついでなのだ。

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