第四十一話 カウントダウン
駆け足で式を挙げる為に、色々とバタバタしていた。
そうしているうちに、とうとう式の前日になっていた。
普通なら、それなりのあいさつ回りやら何やらがあるらしいのだが、私達の色々イレギュラーの二人には、そうした普通の人の味わうような日程では行われなかった。
「アハ、アハハハ。リリィも大変ね」
メイに聞いてみたら、軽く引きつっていた。
「なあ、メイさんや。とある小説によると、私はこれから結婚することになるのだが、結婚したら何をしたらよいのだ?」
「メイさんやって、何よ! 他にも突っ込みたいところがあるけど、急にどうしたの?」
「型にはまった式とやらは、時間を過ぎれば終わるのだけれども、その後がだな。暇そうになるんだが」
「あー、まあー。リリィさんは、言ってみれば貴族みたいな扱いになるから、何もしなくても良いんじゃない? たまに、うちのお店へ遊びに来てお金を落としてくれれば、私は嬉しい」
「ひどい言い方だな」
「あなたが、黙って連れてくれば済むような子じゃなかったから、異世界の小説家さんも大芝居打ったんでしょ。もう、十分活躍したから良いんじゃない?」
「嫌なのだ」
「何でぇ?」
「シャトレーヌは、お店やってただけあって、こちらに来て直ぐに副店長になって、新店舗を作る計画を始めているくらいだ。私は、
「小説家の大先生なんだから、良いじゃない?」
「そんなに沢山ない。退屈なのだ」
「うーん。じゃ、うちのお店で一緒にウェイトレスする? そうしたら『噂の元アサシンだった、メイン・ヒロインが接待してくれる店』ということで、お店繁盛するかもね?」
満面の笑みを浮かべながら、メイは提案してくる。
「いじわる」
「えへへ。冗談です。とまあ、こんな感じで、街での仕事は、有名人過ぎるリリィさんには無理かな」
「そうか。シャトレーヌが、私も一緒にしないかと誘わなかったのは、それもあるのか?」
「ちゃんと式を挙げるまでは、リリィさんの仕事終わらないからね。ゆっくり考えれば良いんじゃない?」
「で、あるか」
「何、その言い方」
メイは、クスっと笑った。
「でも、アサシンさんとしての技能は、そのまま捨てるには、もったいないよね。それに、皇国の人も放っておかないだろうし」
「まあ、そうかな」
「それを皇国の人に教えるのは、嫌?」
「嫌じゃないけど」
「もう、帝国に対して義理立てする必要もないんでしょう? 尊敬する親方様も、いないんだし」
「そうだな。それも、そうだな」
「フェイス様に、御相談してみては?」
「うん。聞いてみる」
「で、ヒロインさんの悩みは、解決したかな?」
「うーん」
「まだ、引っかかるところ、あるの?」
「うーん」
「……。えーと、あのね。ちょっと、話せたらで良いんだけれども、アサシンさんとしてやってた時の話って、聞いても良い?」
「ん? 聞きたいか? 機密に関すること以外なら話せるぞ」
「……。いや、やっぱり大丈夫。エグイ話、出てきそうだし」
「あ、まあ。聞かない方が良いかもな。食事が出来なくなる」
「あはは。やっぱり、本物は違うなー」
メイは、タラリと冷や汗を流していた。
「まあ、自分が死ぬかもしれないのに、爆破を止めに行けるような連中だ。その時点で、普通の人とは神経がちょっと違うかもな」
「へ、へぇ。でも、そんな元アサシンさんが、前日に、こんなブルーになるなんて」
「うん」
「あら? また、元気なくなった」
「モヤモヤが何かは、解決してない。だけど、話してみたら楽になった。ありがとな」
「そう? じゃ、よかった」
「うん」
「リリィ」
「はい?」
「本当に、おめでとうございます。良かったね」
「あ、ありがとう」
結局、メイの時間を取らせてしまっただけだった。
屋敷に戻ると、ローズに、何処に行っていたのかと問い詰められた。
ドレスで、もうちょっと調整したいところがあったらしい。
ローズにとっては、明日は我が身だから、その必死さは私以上だ。
ローズの時は、この何倍も心配したり、手配したりするんだろうな。
この恩は、今度ローズがフェイスと式を挙げるときに返そう。
それは、遠くない未来に起きることだから。
鏡の前の自分を見て、少しハッとした。
(こんな顔、出来るんだな)
そこには、式を待つ一人の女性の姿があった。
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