第四十話 掲載危機

 ようやく、花嫁衣装も決まり、後は式の日程だけとなった。

 もう、普通に住んでいるのだから、式なんて形だけになってしまうのに。

 だが、小説としては完結が結婚式までであり、何よりもリアルな二人の実生活と、ある程度リンクしている。

 なので、式は上げなければならなかった。


「私は、枇々木ヒビキの小説の為に、ヒラヒラとした衣装を着て、結婚式とやらをしなければならないのかぁ?」

 リビングで、うつ伏せになって、愚痴をこぼす。

 そんな風に寝そべっていたら、枇々木ヒビキからお願いしたいことがあると書斎に呼び出された。

「何の用だ?」

 私は尋ねる。

「あの、メイさんのことを小説に書いても良いか、承諾を貰ってきて欲しいんだけど。もちろん、当人と分からないように変えて、大丈夫なようにするんだけど」

「いいけど、原稿は、フェイスが持って行ってしまったろ?」

「ああ、そうなんだよ。忘れていたんだよ。至急、お願い!」

「……」

 私は、衣装選びに付き合ってクタクタだったから、気が回らなかった。

「わかった。行ってくる」

「ごめんね」

 と、謝る枇々木ヒビキ


 移動を馬車ですると、準備してもらって、使用人にお願いしてと、多少手がかかる。

「ちょっと、ひとっ走りしてきますか?」

 私は、体を軽くコキコキとさせて体をほぐした。

 メイのお店の居る街まで自分の足で行くことにした。


 メイのお店に着いて中に入ると、シャトレーヌが忙しく接客していた。

 もう、店長みたいに。

「あら、いらっしゃい」

 シャトレーヌが、出迎えてくれる。

「楽しそうだな」

「そりゃーね。何の御用かしら?」

 私は、メイと込入った話をしに来たと伝えた。

 手があくまで、お店で待つことになった。

 お勧めのティーセットのお茶を、チビチビと飲んで待つ。


 周りでヒソヒソ声が。

(あの女の子。もしかして?)

(え? うーん、背格好は似てるけど?)

 私は、聞こえないふりをする。

(うー。帝国に居た時は、誰も気が付かなかったが、流石に皇国内では無理か)


 親方様達が、皇国の首都を守ったのも大きい。

 親方様は、すっかりダークヒーロー扱いだ。

 また、私の普通の女の子らしくない格好も、分かりやすくなってしまっている原因だ。

(やっぱり、服選びは、大事だな)

 ローズやシャトレーヌの言っていることが、少しだけ分かった。

 

 そうこうしている内に、メイがひと段落したらしく、メイド服の上から一枚だけ羽織ってやって来た。

「こんちわ。リリィ」

「ん」

 私は、軽く挨拶をする。

「で、何か用事と聞いたけど、何?」

 さっそく、本題に入るメイさん。

枇々木ヒビキが、メイも活躍してくれたから、本に書いたらしい。もちろん、メイだとわからないような感じで書くらしいので、良いかどうかと聞いてきてくれと言われてやって来た」

「え?」

 首を傾げて、返事をするメイさん。

「だから、メイの活躍も載せたいと……」

「いやー、ちょっとそれはー」

 あれ? これは、不味い流れでは?

「いやほら、シャトレーヌとローズみたいに、名前とかは勿論変えて、実際の有ったことは色々変更する。そして、分からないように書くから心配いらない」

「いやいやいや、あなたは、メインヒロインだし。ローズさんは、次期皇太子妃様だし。シャトレーヌさんは、リリィの恩人だし。でも、私は普通の女の子だし」

「でも、お前は、私の大事な友達だし」

「ありがとう、嬉しいぃ。……。だけど、小説に出るのは……」

 まずい、押し切られるぞ。

「だ、だからだな……」

「やっぱり、嫌。いくらリリィの頼みでも、恥ずかしいし。街を歩けなくなるし。御免ね」

 

(すまん、枇々木ヒビキ。メイの許可が貰えなかった。)

 すでに、本の印刷が始まっているはずだから、書き直しなんて出来ないだろう。

(後で、枇々木ヒビキには、直接謝ってもらおう。第一、始めに説得してから書かない方が悪い)


 メイには、枇々木ヒビキには伝えておくとだけ言って店を後にした。

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