第三十九話 拘る二人
いよいよ衣装選びも佳境に入って来た。
それを当日着る当人の意見は、ほとんど聞かれずに。
「うーん。とはいえ、フェイスの意見も捨てたものではないわね」
あれ、流れが変わって来た。
「そう言えば、和服で
(え?)
もっと重装備の花嫁衣装が、第一候補の急浮上してきた。
「あのー、ローズさん。私、動きやすい衣装の方が……」
私は、再び、自分の希望を訴えてみた。
「何言ってるの? 当日なんて、ちょっと歩くだけで、後は立ってるだけですよ。花嫁が、何するの?」
「それは、聞いて知ってるけど……」
和服の様な物は、ローズがデザインしてきた衣装の中にはない。
もしかして、これからデザインして作るのか?
「うーん、ローズさん。確かに
この屋敷で数少ない年長者としてのシャトレーヌの意見が出てきた。
「いいえ。小柄なリリィさんには、
「いや、似合うと言うか、こう言うことに疎かったリリィさんには、ちゃんとこちらの世界の伝統的な衣装を……」
「白無垢だって、
「いえいえ、リリィさんが詳しくて、あえて白無垢にしたいと言うのなら、私は反対しないわ。でも、リリィさんは、下手すると普段着でも良いと言い出す子よ。それは、駄目だわ」
あわわ。二人が喧嘩し出した。止めないと。
「わ、私は、振袖とか言うやつでも、構わないぞ」
どうせ動きづらいなら、思い出のある衣装が良いと思って。
だが。
「駄目です!」
二人は同時に私に振り向いてこう言った。
「あ、はい。すいません」
結局、無難なウェディングドレスに決まった。
それにした方が良いだろうと言うことになった。
私にしてみれば、どの衣装も、何かあった時に動きづらいので、苦手なのだが。
「服は、決まったの? ごめんね、忙しくて」
「本当に、そうだぞ」
私はむくれた。
「ごめん、ごめん」
頭をかいて謝る
「で、どれに決まったの?」
「これよ」
ローズが、手に持って、
「……」
「あれ? 気に入らない?」
流石のローズ・コーディネーターも、私の未来の旦那様の御意見は気になるらしい。
「い、いえ。こんな素敵な服を、着てくれるんだと思って、ちょっと……」
どうも、感激しているらしい。
「じゃ、着せてみる?」
ローズの目が輝きだした。
「え? 今から?」
慌てる私。
「ほら、着せて見せてあげて。リリィさん」
シャトレーヌも、テンションが上がっている。
そうして、二人に連れていかれた。
私の部屋で着替えを終え、静々とリビングに向かう。
「ん? どうしたの、リリィさん?」
入り口で足を止める私に、シャトレーヌが気にして声を掛ける。
「う、うん」
「見せてあげないの? リリィちゃん」
と、即すローズ。
すると、ローズとシャトレーヌが手を引いて、私をリビングに招き入れた。
「はい。未来の旦那様。未来の奥様の花嫁衣装ですよ」
ローズが、我が事のように嬉しそうにして、私を紹介してくれた。
「ど、どうかな?」
少し照れてしまい、視線を床に逸らす私。
リビングには、フェイスもいた。
だが、二人とも、返事がない。
「どーしたのかなー? 返事がないぞー!」
ローズが、感想を言うように即す。
「リリィさん、綺麗だよ。本当に素敵だ。リリィさんは、やっぱり乙女だったんだねぇ」
こんな時でも、悪口を言えるフェイスって。
だが、ローズは、突っ込むのを我慢してくれた。
しかし、拳は、固く握られている。
「どう?
私は、
「いいや、それが良い。似合ってるよ。素敵だ。綺麗だよ」
「うぐっ!」
それを聞いて、ローズが泣き出した。
「え? なんで、お前が泣くんだ?」
慌てる私。
お蔭で、私の感動の気持ちが吹っ飛んだ。
「よがった。本当に、こんな時が、ぐるなんで。ほんどうに」
涙声で、ちょっと何言ってるか分かりにくい。
だが、ローズは、私達2人が、ここまでくる流れを思い浮かべてくれたのだろう。
シャトレーヌは、ニコニコして、そのやり取りを見守っている。
「ローズは、本当に涙もろいな。そして、泣くと何を言ってるのか良くわからなくなる」
私は、そのローズの泣き顔が、とても、とても嬉しかった。
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