第三十七話 復興に向けて

 首都への直接の攻撃であったが、首都の破壊そのものは、親方様のお蔭で回避出来た。

 なので復興と言っても、一時的に首都機能が止まっていたのを回復させる程度だった。

 後は、帝国への制裁準備で、皇国政府は忙しくなるだろうが。


 そこら辺の詳しいことは、フェイスもあまり話してくれない。

 私達は、皇国政府の王族・貴族でもないのだから、当たり前だが。


 ようやく、みんなの無事が確認出来て、一安心となっていたが、まだざわついていた。

「さて、首都の被害は、殆どなかった。で、これで安心して次の工程に薦められるわけだ」

 と、フェイスが切り出した。

 一同は、フェイスを見る。

「これから、私も忙しくなる前に、早くしておきたい。枇々木ヒビキとリリィさんの式を」

 と言う、フェイス。

「もう少し、先でも良いぞ。フェイスも、しばらくは忙しいだろう?」

 私は心配した。

 夜もほとんど寝ずに、首都の状況確認で現場に詰めて、国王陛下やローズの無事を確認し、首謀者への制裁。

 これからの国の方針なども、王家主導で動くにしても、フェイスは、その中心人物だ。

 判断のミスは、今回のようなことになりかねない。

 帝国が、流れを変えようと、目障りなリンド皇国を弱らせる為に、首都爆破を実行していたのを予想出来なかったのだ。

 必要以上に煽り、かつ、油断していたと言われていることだろう。

「だからだよ。暇になったらやろうとすると、大体やらないものだ」

「そうか。無理はしないでくれよ」

 シャトレーヌやメイの居る手前、あまり政治的なことを根掘り葉掘り聞けない。


 そう言えば、メイには、フェイスやローズのことは、編集長とお手伝いさんとしか話していない。

 特にメイは、皇国の国民だ。

 直接、拝見して見たことないにしても、パレードなどで遠くから見ているかもしれないから、勘づいてはいるかも知れないが。

 そんな風に、私が口ごもっていると、それを察したかのように、フェイスが自己紹介をした。


「そう言えば、メイさんとは、初めてお会いするね。始めまして。私が編集長のフェイスです。そして、こちらが、屋敷の手伝いをしてくれているローズです」

「は、始めまして」

 メイは、ペコリと頭を下げる。

「あの、もしかして、フェイス様は……」

「そうです。私が、変な……」

 と、フェイスが、またくだらない冗談言おうとすると。

「フェイス! また、くだらない冗談言おうとして!」

 と、ローズがたしなめた。

 出鼻を挫かれて、残念そうにするフェイス。

「メイさん、始めまして。リリィさんのお友達には、お会いしたかったので嬉しいわ」

「いえ。こんな身なりですいません」

「うふふ。変な気を使わないでくださいね。リリィさんとお友達になれる人なんて、普通の人では無理でしょうから。メイさんも、もしかして」

「いいえ。いたって普通の町娘です」

 メイは、慌てて否定した。

「ローズ、お前も変な冗談を言うな。メイが、恐縮している」

 私は、フォローに入った。

「すまん。メイ。こんな形で会わせることになってしまって」

「あはは。いや。その、皇太子様と将来の皇太子妃殿下様と、お友達みたいに話すなんて、リリィさんはやっぱり普通じゃなかったですね」

 と、やや引きつる表情で、メイは言う。

「急に敬語なんて、気持ち悪いぞ。そして、それは、褒めてないな?」

 私は、少しむくれた。

「リリィさんを追い詰めるなんて、やっぱりメイさんも普通じゃない」

 そう言うと、ローズは笑った。

「えーと、話し長くなるかな?」

 フェイスが痺れを切らしている。

「お前が下手糞な冗談を言おうとするから、話が反れてしまったんだぞ。私達のせいじゃない」

 私は、メイの前で、きつく言い返してしまった。

 メイを見ると、目が丸くなっていた。

 その目は、私が、枇々木ヒビキを担いでいるのを見たローズと同じ様な目だ。

(しまった。いつもの様にやり過ぎた)

 メイに取っては国王様の第一王子だった。


「じゃぁ、えーと、服をいくつか選ん出来たので、試着してみてもらいたいの。直ぐ持ってこさせるわ」

 ローズが切り出した。

「え? 何のことだ?」

 私は、ビックリして尋ねた。

「そうだな。そこから始めよう。流石に、今日は持ってきていないしな」

 フェイスが言う。

「大丈夫よ。こんなこともあろうかと、明日には到着するよう手配したわ」

 ローズが、自慢げに言う。

 それを聞いて、私はブスっとした顔をした。

「そんな顔しないの。リリィさん! もう、諦めなさい」

 と、ニコニコした顔でシャトレーヌが言う。

 メイは、目をキラキラさせて、私を見ている。

「何だ。メイ。その目は」

「ローズ様が選ぶ衣装だから、どんなのかと思うと、楽しみで」

「あら、メイさん、嬉しいことを」

 と、喜ぶローズ。

「また、ローズの味方が増えた」

 枇々木ヒビキが、ニコニコした顔で言う。

 

 こうして、私の周りの外堀は、完全に埋まった。

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