第三章 小説「異世界小説家と女暗殺者の物語(プロポーズ編)」

第二十四話 呆れる隣人

 屋敷では、また、いつもの一日が始まった。


「どうだった?」

 シャトレーヌが尋ねる。

「うん。まあ」

 私は視線を逸らす。

「そう、良かったわね」

 シャトレーヌは、それ以上聞かないでくれた。

 リビングには、フェイスやローズも来ていた。

 枇々木ヒビキは、やや緊張して座っている。

 のような気がする。

 私達3人の様子を見て、フェイスとローズも不思議そうな顔をし始めた。

 

「どーしたのかな? みんな」

 フェイスが理由を尋ねてきた。

「あ、あのだなフェイス。僕とリリィ、さんは。これから付き合うことになった。と、報告したくて……」

 枇々木ヒビキが、頑張って伝えた。

 私達は、きっと喜ぶ反応をすると思っていた。

 ……、だが。


「ん?」

 フェイスとローズが互いに顔を合わせて答える。

(あれ? 何か反応がちがうな)

 二人とも目は笑っているのだが、困惑した顔をし始めている。

「フェイス、……。えーと、……。」

「ローズ、それ以上言わなくてもわかるぞ」

 フェイスは、枇々木ヒビキの顔を見なおして言う。

「いまさら、何を言っているんだ? リリィさんはともかく。そういうことは、屋敷へ来た時に、話しておくべきことだろう? 君から……。まあ、ともかく。よかったね」

 フェイスは、枇々木ヒビキと私の顔を見て、笑顔を返してくれた。

「私が、リリィさんに言ったのよ。少し、おせっかいになるかもしれないと思ったけど」

 シャトレーヌがフォローに入ってくれた。

「そうかぁ。だから、リリィさんが、少し落ち着いていない感じだったのか。そうかぁ」

 フェイスが、納得した顔をする。

枇々木ヒビキ君。あのねぇ。あなたねぇ。リリィさんはともかく、ここに来た時点で、普通はOKとわかるでしょう?」

 ローズの方は、お怒り気味だ。

「あのだな。私もハッキリとは言ってなかったからな」

 シャトレーヌに言われたからというだけではない。

 私も、ハッキリと言葉で意思を確認したいと願ったからだ。

「わーかってる。リリィちゃんとシャトレーヌさんは、悪くない。ここは、ハッキリさせなかった枇々木ヒビキが悪い。だから、帝国の様子を見て来ようと焦ってしまったんだから」

 「はい。ローズの言う通りです」

 枇々木ヒビキは、恐縮しまくっている。


「でも、よかった。枇々木ヒビキとリリィちゃんと喧嘩して追い出したか、リリィちゃんが枇々木ヒビキに幻滅して、帰っちゃったのかと心配だった。……、よかった」

 今度は、怒っていた顔が、急に目に涙を浮かべだした。

「たしかにな。リリィさんだったら、『付き合えない』と分かった時点で、自決しそうだ。その前に、俺達全員血祭かな? ハハハ!」

 と、また余計な一言を言うフェイス。

「ぬ! まーた、あなたは!」

 いつもの喧嘩が始まった。

 シャトレーヌは、それを見て笑いを堪えている。

 

 フェイス達には少し呆れられたが、改めて確認し合えたのは良かったと思っている。

 お陰で、この国のどこに居ても、安心していられると実感出来た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る