第二十一話 心に響く思い(1)

 こんな感じで、初めてのデートらしきイベントは終わった。

 預けていたとはいえ、武器も持たず、長時間外にいるのは、初めての経験でもあった。


「もう、帰って来たの?」

 ローズとシャトレーヌが、ガッカリした声で出迎えてくれた。

「何で、がっかりしているのだ?」

 私は、少しあきれた。

「いいえ、そうじゃないけど。ねぇ」

 二人向き合いながら、声をそろえて残念そうに言ってきた。

「ちゃんと、昼食も取って来たぞ」

「うーん。別に仕事じゃないから、プラン通りじゃなくても……」

 ローズは唇に手を添えて、少し困った顔をしていた。

「でも、まあ。楽しかった?」

「うん、シャトレーヌ。枇々木ヒビキとは、色々と話は出来た」

「そう。よかった」

 

 いったん自分のに戻って荷物を置き、服を着替えてリビングに行く。

 食事を終えると、フェイスとローズは帰り支度を始めた。

「今日は、帰るのか? フェイス」

「ああ、編集長としての仕事は、こっちだけじゃないからね」

「明日こそは、シャトレーヌさんの服を買いに、街へ行きましょう?」

 ローズも小奇麗な格好になっていた。

「うん。色々世話をかけているから、私もプレゼントしたいし。前に見つけたお店も案内したい。シャトレーヌのお店と似ているぞ」

「まあ、リリィさん、嬉しい。楽しみだわ」

 シャトレーヌは、手を合わせて喜んでいる。

「やっぱり、女性3人集まると、賑やかになるんだね?」

 枇々木ヒビキが興味津々に観察している。

「あら、参考になってる? 枇々木ヒビキさん?」

 シャトレーヌが、枇々木ヒビキに尋ねる。

「あはは。小説の参考にってわけで、見ていたわけじゃ。楽しそうだなぁって。女子会は……」

(女子会? 何だ、それは?)

 私は、女子会の意味を聞きそうになったが、ローズが慌ただしく席を立ち帰る準備を始めてしまい、聞きそびれてしまった。

「じゃ、もう行くからね? またね?」

「ああ、またな。ローズ。フェイスも」

「見送りはここで良いから、じゃ、また明日」

 フェイスが手を振り、二人は帰っていった。

「ねえ、リリィさん」

「何だ?」

「フェイスさんって、気さくな方だけど、普通の子達とは雰囲気がちょっと違うわね。ローズさんも」

「やっぱりわかるか? 流石、女店主だな」

「ウフフ。そうじゃなくても、分かるわよ」

「だな」

枇々木ヒビキさん。どんな方達なのか、教えて頂くのはダメなのかしら?」

「うん。もうちょっと。けど、そんなに秘密って程じゃないけど、小説の続巻でる頃ぐらいには」

「私は別に気にしないけど、その頃には、大体わかってしまうんじゃないのか?」

 私は、指摘した。

「このお屋敷と、私達3人。それに、使用人さん達。やっぱり、それなりの方達でしょうね。やっぱり」

 シャトレーヌは聞いてきた。

「そうですね」

「3人でいる時に、何か、あったのか?」

 私は、少し気になった。

「これから、どうするかとか、少しお話をね。ずっと、ここで家事手伝いしてても、飽きちゃうし」

 ずっと店を切り盛りしてきたのだ、確かにそうだろう。

「リリィさんが紹介してくれるお店に興味があるな。似たようなお店なんでしょ?」

「外だけだな、中の雰囲気は違った」

「へぇ。私のお店を、真似してくれる人がいたんだ」

「シャトレーヌのお店は、人気らしいぞ」

「シャトレーヌさん、リリィさんは、そのお店に友達がいるんですよ」

「へぇ、本当? 明日、会えるね。楽しみだなぁ」

「そ、そうか」

 少し照れ臭くなってしまった。

「そうだ、ローズさんが、また新しい衣装をリリィさん様に作ってくれたのよ。」

「またか?」

 嫌な予感がする。

枇々木ヒビキさんの居た世界のに似た服なんだって」

 と、シャトレーヌ。

「それは、動きやすい服なのか?」

「うん、うん。動きやすそうだったよ。ねぇ、枇々木ヒビキさん」

「和服だから、どうかな?」

 枇々木ヒビキの返事は、ハッキリしなかった。

「……」

 私は、ムスーとした顔をした。

「まぁ、まぁ、リリィさん。部屋に行ったら、ちょっとだけ着てみよう。気に入るから」

 シャトレーヌは、私をなだめてくる。

「……」

 それでも私は、ムスーとした顔をした。

「僕は、着てる姿、見てみたいなぁ~」

 そうか、枇々木ヒビキが見てみたいというのなら、いつかは着て見せてやるしかない。

 しかし、ローズは、私を着せ替え人形のように、枇々木ヒビキの世界の衣装を着せようとする。

 もっと動きやすい服は、無いのかと思うのだが。

「じゃ、枇々木ヒビキさん、リリィさん。もう、二人とも休もうか?」

「うん。では、おやすみなさい、シャトレーヌさん。リリィさん」

「ああ、枇々木ヒビキ、おやすみ。シャトレーヌ、私の部屋に行こう」


 初日に、ローズが一緒に泊まった時のことを思い出した。

 私のことを心配して、一緒に泊まってくれたのだった。

 部屋に付くと、シャトレーヌが言っていた衣装があった。

 ヒラヒラが袖の下についている。

 着物風で着やすいようにしているらしいから、着るのには苦労をしなかった。

 枇々木ヒビキの世界では、これを一人で着るのは大変らしい。

 しかし、両袖の下のヒラヒラは何なのだ?

「リリィさんは、小柄だから似合うわね」

「そうか?」

「うん。枇々木ヒビキさんが見たら、どんな顔するのかなぁ?」

「また、ペンを落っことすかな? 前に、枇々木ヒビキの世界の『洋服』というのを着て見せた時には、落としていたぞ。大事なペンだと言っていたのに」

「へぇ。そうだったの?」

 シャトレーヌは、クスクスと笑い、嬉しそうに答えた。

「……。リリィさん、私のお店に来てくれて、ありがとうね」

「急に何だ?」

「私も、あなた達の世界に巻き込んでくれて、ありがとう」

「いや、でも、お店が無くなってしまった。向こうの生活も……。私と違ってシャトレーヌは、……」

「ううん。あなた達の出会いが、この世界を変えようとしている。その二人の近い所にいられるんだもの。とても嬉しいわ」

「そうか?」

「うん。フェイスさんも、ローズさんも、とても良い人ね。あの兵隊さん達も、怖ーい親方様も。みんな、あなた達を応援しているわ」

「……」

枇々木ヒビキさんには、ちゃんと返事をしたのかな?」

「何のだ?」

「そっかー。まだ、ちゃんと返事してないのかー」

「返事とは、何だ?」

「ちゃんと付き合いますって、返事!」

「してないかもな。しないと駄目なのか?」

「うん。ちゃんと担保を取らないと」

「担保? 借金でもさせるのか?」

「ウフフ。まあ、似てるかなぁ?」

「何だ、ちゃんと答えろ!」

「いい? 本には、沢山気持ちが書いてあるかもしれないけど、ちゃんと本人の口から、聞きなさい。そして、あなたの気持ちを、ちゃんと伝えなさい。いいわね?」

「うう、めんどくさそうだな」

「だーめ。1つの区切りだから。ね?」

「うーん。やって、みる」

「はい。頑張ってね。じゃ、もう寝るわね。おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

 そう言って、シャトレーヌは、自身の部屋に戻っていった。

 私は、着ている服を、何度か確認して、夜用の服に着替えた。

(こっちの方が、動きやすいな)

(寝る前に、枇々木ヒビキの書いた本を読み返してみるか?)

 見たい所だけ目を通してはいたが、ちゃんと読んではいなかった。

 私は本を手に取り、読み始めた。

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