第十三話 帝国への再潜入(1)
屋敷に戻ると、
「もう、戻っていたのだな。どうした? 何か、あったのか?」
だが、私の顔を見て安心した顔をした。
「いや、また、どこかに行ってしまうのじゃないかと、心配になって。やっぱり、しばらくは、屋敷に居てもらった方が良かったかなと、後悔してたんだ」
「そうか。でも、私は、ここ以外に行く当てが無いから心配無用だぞ」
「うん。そうなんだけど」
「リリィ様。あのお店での出来事をお話ししては如何でしょうか?」
見かねてメイドが話しかけてきた。
「ああ、そうだな。
それを聞いた
「ほ、本当?」
「嘘をついてどうする」
「
「あ、帝国のお店と似ているって、私が向こうの宿に居る時通っていた、あのお店?」
嬉しそうに話をする
「うん。そうだ。
「そうか。リリィさんも、帝国のあの店に行ったんだ。そうかぁ」
少し涙ぐんで話す
「何で泣いてるの? それに、いつまでここで立ち話をしなければならないんだ?」
「あ、そうだね。ごめん。……。リリィさん、お帰り」
「ああ、
そうして、ようやく屋敷に入ることが出来た。
屋敷には、まだローズは戻ってきていなかった。
フェイスもいない。
「
「うん。フェイスは、雇い主と相談することがあるって言ってたから、僕だけ先に帰って来た」
「僕は、これから書斎に籠って小説を書くんだけれども、リリィさんは、どうする?」
「うーん」
私は少し考えて、「一人でいてもつまらないから、何か手伝うぞ」
「え、ほんと? じゃ、誤字脱字とかでも良いから、見てくれると助かるかな」
「じゃ、手伝おうか」
二人で
「昨日徹夜して書いた原稿を、チェックしてくれないかな?」
「ずいぶん厚いな」
「うん。ちょっとした大作だからね」
私は、パラパラとめくって、誤字脱字がないかチェックを始めた。
文字については、それ程自信はないが、違う世界から来た
既に、フェイスも目を通しているだろうけど。
カリカリとペンの音と、私の原稿をめくる音だけが、書斎に響いている。
時々、使用人達の会話や、屋敷の用事をしている時の物音が聞こえてくる。
サラサラと筆を進めているかと思うと、ピタッと止めて、「うーん」と窓の外を遠い目で見たりしている。
そして、頭をカリカリとかくと、またペンを走らせる。
何枚か書いては見返し、棒線を引いて横に小さく書き直している。
(あれ、この字は、何だったっけ?)
私は、時々見つける、わからない字を思い出しながら見ているので、なかなかページが進まない。
そして、また何かを思いついたのか、直ぐに原稿用紙に書き始める。
「リリィさん、ここの表現なんだけど。この世界の人達も、同じように考えるものなのかな?」
「うーん。わからないな。普通に生活している人の、細かい気持ちまでは」
「そうか。ここは
「すまないな。普通の女の子とは、生活も、考え方も違っていて役に立てない」
そう言うと、
「何を言ってるんだい。僕は、そういう君に惹かれたんだよ」
「そ、そうか」
私は、恥ずかしくて視線を逸らした。
「……」
だが、
「何だ? 手が止まっているぞ」
「うん」
そう言うと
私は、分からない字があるけど、分かるところで間違っている所や、書き方でわからないところをメモして渡した。
「リリィさん、ありがとう。お茶でも飲もうか? 頼んでいいかな?」
少し小休止しようと
「わかった、キッチンに行って入れてくる」
「ありがとう」
1冊目は、異世界小説家と暗殺者のヒロインが出会い、もう一度再開するまでの物語だ。
今、
モデルは、私達だが、そのまま書くわけではない。
「ドキュメンタリーを書くわけじゃないからね」と、
ドキュメンタリーとは、事実を忠実に書くものらしい。
確かに、そのまま書いても殺伐とした、つまらない話になるだろう。
そもそも、そんなに色んなイベントは起こらない。
それを物語として書くには、いろいろ七転八倒することを書いていくのだそうだ。
時々、私には見せない原稿がある。
そこには、
気になったので、見せてもらおうとした。
「いや、そこは恥ずかしいので、フェイスに見てもらうから。大丈夫だから。大丈夫だから。それに、ネタバレになるし」と言って見せてくれない。
(何だ? ”ネタバレ”って)
その小説のヒロインのモデルになっているのは私だ。
そのヒロインに、恥ずかしいセリフをあまり言わせないで欲しいんだけど。
ローズから連絡があり、今日は屋敷には来られないようだ。
フェイスも一息つくと、打ち合わせの話を話し始めた。
私は、遠慮しようと席をはずそうとしたが、一緒に聞いてくれと言われ同席した。
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