第十二話 舞姫の友人(2)

 ローズが渡してくれた、”ここがお勧めリスト”に従って、メイドと街を見て回ることにした。

 帝国と違う街並み。

 皇国は、歴史のある国だ。

 古い建物と新しい建物が並んでいる。

 

 屋敷での生活で、自分が必要になりそうなものをいくつか買ってみた。

 そうしているうちに、見慣れたお店を見つけた。

「あれ、このお店、似ているな」

「リリィ様、こちらのお店にご興味がございますか? こちらは、帝国で評判のお店を真似て作られたと聞いております」

(まさか、あのお店の主人はいないよな)

「入ってみて良いか?」

「どうぞ、ご自由に。席がないようでしたら、外でお待ちしております」

「いや、私も待つぞ」

「ありがとうございます。では、入りましょうか?」

 入ってみると、中の作りは帝国のあのお店とは違っていた。

(まあ、そうだよな)

 少し、ガッカリした。

「いらっしゃいませ。お二人で?」

「左様でございます。席は空いておりますか?」

 そのウエイトレスは、ハキハキと私達に声を掛けてきて案内してくれた。

 メイドが、お勧めを確認し、二人分注文した。

(あのウェイトレスさんの感じ、似てるな。若かったらあんな感じか?)

 つい、あのお店の主人と重ねてしまう。

 

「リリィ様。少しお疲れになりましたか?」

 メイドは、気を使って話しかけてくれた。

「いや、大丈夫だよ」

「お体の方でだけではなく、御気分の方もですか?」

「まったく無いと言えば、嘘になるかな。けど、ローズのお蔭で昨日はゆっくり休めたよ」

「それは良かったです」

 そんな会話をしつつ、女主人と雰囲気が似ているウェイトレスが気になっていた。

「リリィ様は、食べ物でお好きな物や嫌いな物は、どんな物がございますか?」

「いや、何でも大丈夫だ。あるものなら何でも食べる」

「わかりました。では、ケーキセットなど如何でしょうか?」

「うん。けど、メニューを見ても良くわからないから、任せるぞ。食べたことはないし」

「かしこまりました。あの、そこのウェイトレスさん、オーダーをお願いしたいのですが?」

「はーい、わかりました。直ぐ伺いますー」

 彼女は、パッと笑顔で振り向いて、こちらにやって来た。

「何に、お決まりでしょうか?」

「こちらのケーキセットを1つお願い出来ますでしょうか? それと、私だけ外に少し出ます。直ぐ、戻ってまいりますので」

「あ、はい。分かりました。では、直ぐお持ちします」

 ウェイトレスの彼女は、クルリと向きを変えて、奥に戻っていく。

「何か用事でもあるのか?」

 私は、彼女の仕事の邪魔をしてしまったかと気に病んだ。

「いえ。少し買い足しておきたいものがありまして。帰りが遅くならないように、今の時間に住ませておこうと」

「そうか、気を使わせて悪いな」

「いえ、仕事ですので、お気になさらずに」

「うん。わかった」

 彼女はニコリと笑みを浮かべながら、「では、すぐ戻ります」と言って席を立つ。

「気を付けて。何かあったら直ぐに私を呼んでくれ、変な奴らは追い払えるからな」

「それは心強いです。ありがとうございます。ただ、そのようなことにならない様、気を付けていってまいります」

 そう言って、お店を出た。


(そう言えば、帝国のあのお店に入った時は、一人だったな)

 あの時も入口をずっと眺めて、枇々木ヒビキのことを考えていた。

 懐かしく思った。

「お待ち同様です」

 あのウェイトレスが、頼んだケーキセットを持ってきてテーブルに並べてくれた。

「ありがとう」

「あの、失礼ですが、少しお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

 彼女が訪ねてきた。

「何だ?」

「あのー。もしかしたらですが。お客様は。私が読んだ本に出て来る女の人に、似ていらっしゃると思いまして」

「小説というと、今流行りの”異世界小説家”の奴か?」

「あ、はい。そうです。背格好や、喋り方、先ほどの姿とか見ていて、もしかしてって」

「う。うん。実は……」

 そう言うと、パッと明るい顔をして、手に持ったお盆で口を隠して喜んでいる。

「えー? か、可愛い方ですねー。ずっと気になってたんですよ。ちゃんと主人公の彼と出会えてるかって、心配で」

 お店の中で、仕事中なので、小声ではあるが、少しはしゃぎ気味で話してきた。

「先ほど、寂しそうに店のドアの方を見ていたので、あの下りを思い出して、つい声を」

 あの部分は、自分の中の葛藤が書かれてあった部分のはずだ。

「お前は、私が、怖くないのか?」

「え、何でですか?」

「暗殺者だぞ」

「でも、あの時から、”恋する乙女”ですよね?」

「んん?」

 ”冥府の舞姫”と呼ばれた私も、これでは、形無しだな。

 枇々木ヒビキが書いた、あの小説で、”冥府の舞姫 暗殺者・リリィ”は死んだ。

 異世界転移の秘法で侵略を企てている某国と、それに翻弄される主人公とヒロイン。

 この2つが事実と創作が織り交ぜて書かれてあり、国家も、庶民も、目が離せなくなってしまったのだ。

 彼女は、私の両手をガシッっと掴んで顔を近づけ、こう言った。

「私、応援してますからね!」

「あ、はい」

「また、この店に来られます?」

「あ、来ると思うぞ」

 そうこうと話をしている内に、メイドが返って来た。

「リリィ様。お待たせいたしました。お二人とも、お話が弾んでおられるようですね?」

「ご、ごめんなさい。つい長話を」

 ウェイトレスの彼女は、少し慌てた。

「いや、構わないな」

 顔を近づけられたときは、少しビックリしたが。

「リリィ様、このお方のお名前は、まだ尋ねられていませんのでしょうか?」

「うん、何でだ?」

「お1人でも、お話出来る方が増えるとよろしいと思いまして。ウェイトレスさん、構いませんか?」

「ええ。私、『メイ』と言うの、よろしくね」

「私は、リリィだ。よろしくな」

 メイは、「じゃあ、またね。リリィちゃん」と言って、再び仕事に戻った。

 私は、少し複雑だった。

 今まで、闇の中で仕事をして来たのに、今は街のウェイトレスにすら、正体がわかってしまう。

 メイドは、「大丈夫ですよ。彼女は、感が良いだけでございますよ」と慰めてくれた。


 話が終わったので、私はケーキを食べていると、「お友達、出来ましたね。良かったですね」と、喜んでくれた。


 枇々木ヒビキ、私にも、が出来ました。

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