第5話 あとがき

  それにしても、中国人というのは大した民族です。

  「自分探し」のためになんていう、ちょっと聞けば「お気楽な動機」で、日本という外国までわざわざやって来る。そこで日本語を覚え、大学で学び、経済的に自立すると、本来の目的を更に追求する為に、自分たち中国人伝統の武道(太極拳)という触媒をうまく運用し、新しい伝統を作り始める。

言葉・外国に住むというハンディキャップを乗り越え、逆に善に転化して「自分の魂の原点」へ行き着こうとする、その本能的とも言える理性(自分自身を引っ張るリーダー性)を地味に確実に時間をかけて、粘り強く発揮していく姿は、まさに、中国人自身が太極拳そのものである、といえるでしょう。

(40年前~5年前にかけて、北米・南米・中南米・欧州で出合った沢山の中国人(殆どが中華料理屋を経営)を思い出します。

コスタリカの森林(ジャングル)鉄道で、首都から12時間もかけて行ったカリブ海沿いの小さな町の10人くらいしか入れない小さな中華料理店、アメリカによってぐちゃぐちゃにされたニカラグアの首都にある立派な中華料理店、グアテマラの90%が原住民ばかりの町で、堂々と大きな中華料理店を営む中国人、イタリアのベニスの郊外にあるしゃれた風情の中華料理店。どの店も「ラーメンが食いたい」と(心から)切望すれば、それに応えて地産地消の農・魚産物で出汁を取った美味いラーメンを(リーズナブルな価格で)食わせてくれました(台湾では、どこでも化学調味料味ばかりでしたが)。

世界中、どこへいっても地元の産物を使って中国人の味を引き出すことのできる中国人。日本人も、太平洋戦争中に全財産をアメリカ政府に没収され、アリゾナの砂漠にある強制収容所に入れられた時、マグロ(トロ)の味を懐かしんでアボガドを使い、自分たちで収容所の中で味噌・醤油を作り、後に「カルフォルニア・ロール」と呼ばれる巻き寿司(の元)を作ることで、日本人性を忘れなかったそうです。

魂のルーツ・味覚のルーツを持てる人間こそ、本当の民族と言えるのでしょう。

2023年4月23日

V.1.2

平栗雅人

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

過去の記憶を持つ民族 V.1.2 @MasatoHiraguri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る